摂食障害からの回復と重要な他者とサポーター
「アイデンティティの確立」が、思春期・青年期の発達課題です。
この時期は、自分自身との関係、二者関係、集団や社会との関係の「自己固有性」を確立していく時期です。
そして、青年期から成人期初期には、親密な二者関係(パートナーシップ)の確立が課題になります。
摂食障害の治療を受け始めた頃のジェニーさんは、男友達のマイケルとジェッシー、そして女友達のデニスに病気のことを話し、摂食障害からの回復への道で重要な役割を担ってもらおうと思っていました。
しかし、彼らはジェニーさんの助けにはなりませんでした。
心理療法家のトムは、ジェニーさんに、サポーターになってくれる人を選ぶときに注意すべきことをアドバイスしてくれました。
その人たちの要件とは、私のことを一人の人間として本当に気にかけてくれる人、共感しながら話を聞ける人、回復するために何をしなければならないかを、その人が私に指示する必要はなくて、むしろ私が自分で設定したゴールを達成できるように、一緒にとり組むことが大切なのだと気づいてくれている人、考え方が柔軟で、回復はその日その日で少しずつ進んでいくものだと理解している人、私が一番ひどい状態のときでも、助けを求めやすい人、そして、私が落ち込んでいるときにも、進んで手を差し伸べようと思ってくれている人、そんな人たちが必要なのだということでした。
シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店
ジェニーさんがサポーターとして選ぼうとしている友人たちは、思春期の対人関係療法で使う「親しさサークル」では、第2層、あるいは第3層の人たちなので、自分の気持ちに影響を与える「重要な他者」とは見なしませんよね。
しかし、『摂食障害から回復するための8つの秘訣』の「秘訣7 摂食障害にではなく人々に助けを求めよう」では、友人などの他者にサポーターになってもらう重要性が説明されていますよね。
摂食障害からの回復の道のりで、重要な他者とサポーターはどのように考えればいいのでしょうか?
摂食障害からの回復では、家族が一番の協力者となり得ます。
あなたの年齢やあなた方の関係には関わりなく、家族はあなたの人生に、そしてある程度は過食症に、深刻な影響を与えているのです。
明らかに、あなたが家族と住んでいるかどうか、あるいは誰かと恋愛関係、婚姻関係にあるかどうかによって、家族から得られる支援のレベルは変わってきます。
あなたがまだ若くて親と同居しているのであれば、家族の方に回復のプロセスに参加してもらうことを強くお勧めします。
また、独立して生活しているとしても、親きょうだいから助けてもらうことはできるでしょう。
最後に、誰かと真剣な恋愛・婚姻関係にあるのならば、その人が味方になってくれるはずです。ホール&コーン『過食症:食べても食べても食べたくて』星和書店
ジェニーさんは、親とは同居していませんでしたが、家族に病気のことを話し、「家族には、私が何を経験しているのかを理解してくれなくてもいい、私の話を聞いて、私のことを信じて、そして私のそばにいてくれるだけでいい」と伝えました。
独立して、親と離れて暮らしているのであれば、親にどのくらいあなたの回復に関与してもらうか、それほど関与してもらわないか、あるいはまったく関与してもらわないかは、あなた次第です。
明らかに、親は一緒に住んでいる子どもに対するようには、あなたの食事を管理するわけにはいきませんが、精神的に支えたり、慰めたり、愛情を注いだりすることはできます。
(中略)
私は、多くの成人した子をもつ親御さんたちから連絡を受けており、彼らが主として知りたがっているのは、どのような援助ができるのか、なのです。
ホール&コーン『過食症:食べても食べても食べたくて』星和書店
社会人になって家を出て一人暮らしをしている摂食障害の患者さんに対して、家族とくに両親は、患者さんからサポートを求められない限り、あまり出番は無いかもしれませんが、精神的な支えになることはできますよね。
故事にも「遠くの親戚より近くの他人」と言われるように、成人期には重要な他者である育ての親よりも、身近な友人がサポーターになりますし、両親に代わってパートナーや配偶者が重要な他者として位置づけられるのです。
多くの人が、夫、妻、パートナー、彼、彼女に打ち明けるのはとても難しいと言いますが、一度打ち明けてしまうと、相手からの反応は通常極めて共感的で助けになるものです。
ほとんどの人がよくやってくれるのです!(中略)
その一方で私は、拒食症あるいは過食症の患者さんが病気にすっかり呑み込まれて、結婚生活に亀裂が入ってしまう様子も頻繁に見てきました。
摂食障害の脇役で我慢してもよいという人生のパートナーはまずおらず、一方で、患者さんにとっては、摂食障害の方が主たるパートナーになってしまうのです。ホール&コーン『過食症:食べても食べても食べたくて』星和書店
周囲の人に助けを求めようとするのは、「自分のまわりの状況に変化を起こす」ことに取り組んでいる「実行期」です。
自分の中で摂食障害の部分(エド)との関係がある程度整理され、自分と他者の心の状態が分かるようになってきていますから、自分の本当の期待と摂食障害の部分(エド)の要求が区別できるようになっています。
このような時期には、患者さんと周囲の人たちの関係やコミュニケーションは、多少のすれ違いはあるにしても、本音で話し合うことができますし、お互いの期待の整理もしやすくなりますし、自分の心に正直になることで関係の修正も可能なのです。
しかし、摂食障害の患者さんが病気にすっかり呑み込まれてしまっているとき、周囲の他者、特に家族に対する要求は、摂食障害の部分(エド)の要求そのものになってしまいます。
重要な他者との関係のように、アタッチメント要求が活性化される状況では、自分と他者の心を見わたすメンタライジング能力が抑制されてしまいやすいのです。
食べ物を細かく計ることを要求したり、過食用の食材の買い出しを指示したり、あるいは父親のことが嫌いだからと父親を追い出したり、要求はどんどんエスカレートしてしまい、巻き込み強迫、あるいは共依存のような状況を呈してしまいます。
無理な要求を聞いてあげれば患者さんが安心できるから摂食障害が治る、と説明する治療者もいますが、残念ながらこのやり方で回復した人を診たことがありません。
家族が摂食障害の症状に対して融和的なスタンスを取り、摂食障害行動を許容するように行動してしまうと、患者さんは強迫行為が妨げられたときと同じように心の痛みと苦しみに耐えられないため、家族内での対立が起きてしまいますし、関係に亀裂が入ってしまいます。
この件については、いつか詳しく書いてみたいと思っています。
院長