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摂食障害から回復するための治療関係

[2018.05.14]

愛着トラウマと摂食障害』で触れた、他者に対して情緒的に何ら求めることがなく、有効に機能し、自分自身の欲求を自覚していないかのように見える「遠ざかり境界性自己障害」は、対人関係に距離をとることで安心を得ている「対人恐怖的回避型」のようにも見えますよね。

 

〔回避型(拒絶回避型&対人恐怖的回避型)〕の人でも、心の奥底には愛着対象に対する不安、不信、怒り、アンビヴァレンスを抱えており、その点では〔アンビヴァレント型(とらわれ型ともいう)〕と同じなのです。

〔アンビヴァレント型〕がネガティヴな感情を表出するのに対して、〔回避型〕は愛着対象との情緒的関係を遮断することによってネガティヴな感情が表に現れないようにしているのです。(アレン『愛着関係とメンタライジングによるトラウマ治療』北大路書房)

 

彼らの不幸は、周囲の人々と自分への二重のうそをとおしてしか真実を語れないことにある。

その背景には必ずどこかに、うそをつかず、素直に人とのつながりを求め、人からの援助を期待してみたものの、拒絶され、傷ついてきた挫折の歴史がある。

近親者による虐待被害を受けてきたアディクトの、加害者との関係はその最も過酷で極端な例であるが、あからさまな虐待経験はなくとも、重要な他者との数多くの決定的な失敗体験を重ねていくうちに、彼らは素の自分のままで人とつながることを諦めていく。

小林『人を信じられない病 信頼障害としてのアディクション』日本評論社

 

〔回避型〕の人は安定したアタッチメントのサポートが欠けているために、極度のストレスに直面すると、容易に〔おそれ型/未解決型〕の愛着スタイルを呈します。

認めてもらえない恨みや不満、怒りの表出として現れた無秩序な愛着パターン〔おそれ型/未解決型〕は、普段は、〔安定型〕〔回避型〕〔アンビヴァレント型(とらわれ型)〕として覆い隠されていることが知られています。

 

家族はしらふで自分の怒りの感情をストレートに出すことができるが、アディクトはアルコールや薬物という「浮き輪」の力を借りなければ怒りを出すことさえできない。あるいはギャンブルや自傷行為、過食嘔吐などの単独行動の力を借りなければ、それらの感情を抑え込むことができない。

周囲が叱れば叱るほど、アディクトたちは「やはりありのままの自分の姿は周囲の人々に受け入れられないんだ」と諦め、「人」ではなくアルコールや薬物といった「物」や、ギャンブルなど「単独行動」に頼るしかない孤立状況に追い込まれることになるのである。

小林『人を信じられない病 信頼障害としてのアディクション』日本評論社

 

人とつながることを諦め、何とか生き延びるために手にした「役に立つ浮き輪」である「食べるという行動依存」を手放すために最初に通らなくてはいけない道筋は、治療者と安定した関係を構築することです。

 

アディクトの生きづらさや孤立感を伴う生育歴は、しばしば患者にうつ状態や不安症状の嵐を引き起こす。

そして、そのような嵐を生きのびるために、彼らがたまたま手にした「役に立つ浮き輪」がアディクションだったのだ。

彼らにアディクションという浮き輪を手放してほしいのであれば、まずやるべきことは、彼らに浮き輪を使わずに浮かぶための泳ぎ方を、つまりアディクションという行動を取らずに、日々の生きづらさに対処する方法を学ぶ機会を、根気強く提供し続けなければならない。

小林『人を信じられない病 信頼障害としてのアディクション』日本評論社

 

しかし、「回避型愛着スタイル(対人恐怖的回避型)」あるいは「遠ざかり境界性自己障害」は、苦痛な愛着体験に由来するものであり、これまでよりも人と親密になることは不可避的に不安を引き起こすため、治療者との関係構築が上手くいかないことも多いのです。

人と人とのつながりをより快適なものに修正するために、不安と心配事がうずまく日常を乗り切るために始めた「過食(食べるという行動依存)」によって、ますます「心理的孤立と無力感」に追い込まれてしまうからです。

 

人からの援助を期待する本心を抑えて「『人』よりも薬物やアルコールなどといった『物』の方が自分を助けてくれる」と自分自身にうそをつき、「物」の力を借りて「素の自分とは違う自分」に変わろうとする。そして、周囲の人たちには「薬物なんか使っていない」「アルコールなんか飲んでいない」とうそをつく。

つまり、他者と自分に向けられたアディクトの二重のうそとは、「人」ではなく「物」に頼ることで、これまで大切な人から拒絶されてきた「孤独な自分」を脱ぎ捨てて「新しい自分」に生まれ変わり、もう一度「人」とつながろうと試みるアディクトの絶望的なメッセージなのである。

小林『人を信じられない病 信頼障害としてのアディクション』日本評論社

 

他者や治療者との縦の関係に「頼りたい、甘えたい、でも否定したい」「近づきたい、でも離れたい」とのアンビヴァレンスが、「他者と自分に向けられた二重のうそ」ということですよね。

 

そんな「乱れた食行動に悩む女性(摂食障害の患者さん)たち」に対して治療者は、「モデル(目標と感じることができる人)」「メンター(経験に基づき助言してくれる人)」「サポーター(アタッチメント対象としての心理的な支え手)」として機能し、「日々の生きづらさに対処する方法」を学ぶ機会を根気強く提供し続ける必要があるということですよね。

 

院長

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