身体感覚とアタッチメントと摂食障害からの回復
身体との向き合い方について『ネガティブな思考や不愉快な感情を身体感覚としてあつかう』や『感情を感じてみるということ』で説明しましたよね。
「体への思いやり」プログラムでも、「情動状態(気持ち)を身体感覚としてとらえる」があります。(『摂食障害の月経前症候群と月(身体)のリズム』参照)
『8つの秘訣』にも「感情とは、自分の思考に身体が反応して引き起こされるものである」とあるように、自分の心を振り返り気持ちを感じてみる練習と同じように、身体感覚に注意を向け、解釈したり判断したりせずに感じてみる練習をする必要がありそうですよね。
シグナルを(「ただなんとなくお腹が空いている」とか「空っぽな感じがする」とか、「満足した」というような曖昧な感じではなく)なるべく明確に特定して、体のどこで感じているのかを認識することが大切です。
物理的な説明ができるようになることも大切です。暖かさや冷たさは感じますか?
なめらかさやごつごつしている感覚は?
伸縮はどうですか?
動いていますか、それともじっとしてますか?
重いですか、それとも軽いですか?
ゆるんでいますか?しまっていますか?
(中略)
乱れた食行動からの回復への旅を始めたばかりの女性は、すぐにシグナルが見つけられず、やる気をなくしてしまうかもしれません。
見つけられないなんて自分は何かがおかしいんだとか、出来損ないだ、などと感じてしまうかもしれません。
だからこそ、シグナルを見つけるには何週間も集中的に注意を払う必要があるということを覚えておくことが重要です。ジョンストン『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』星和書店
「回避-軽視型」の愛着スタイルの人だけでなく、摂食障害の人も、「繊細さ——鈍感さ」、「頑固さ——唐突さ」という2つの極の間を揺れ動き、自分の心の体験を実感し把握する能力がかなり低くなっています。
摂食障害の人は、出来事を具体的に述べることが困難なだけでなく、出来事と関連した感情を叙情的に表現するのも難しいため、思考で埋め合わせしようとし(知性化)、心の空虚感を食べ物という具体的な物質で埋めようとしているかのようです。
このように知性化を多用する人たちは、気持ちを感じてみることを指導しても何も出てこないことが多く、治療が苦しく感じられ、治療初期にドロップアウトしてしまうことも多いのです。
そのため三田こころの健康クリニック新宿では、摂食障害の【ガイド付きセルフヘルプ面接】を導入し、『素敵な物語』と『8つの秘訣』を読み進めながら、少しずつ「自分の心を振り返る」ことに取り組んでもらっているんですよ。
食べ物を敵視しなくなれば、今度は食べ物を自分の心の状態を知るために使えるようになります。大好きな過食食材が私たちに語りかけ、何か言おうとしていることがわかるようになります。
日々の食べ物の選択が伝えているかもしれないことに耳を傾け、それを解読していくと、気づいていなかったことが明らかになるのです。
ある食感がある感情と関係していたり、感情が抑え込まれていることと関係していたりします。(中略)
食べ物の象徴的な意味を探ってみると、なぜか自分の無意識に隠れてしまっている厄介な感情が明らかになることがあります。
体はお腹がすいていないのに、ある特定の食べ物が欲しくてたまらないという場合、満たされないといけないのは心のバスケットだということがわかります。そして、その食べ物が自分の感情に何かしらの変化を与えるということがわかっていれば、こんなふうに自問することができます。
「自分が感じたくない感情は何だろう?何がいやなんだろう?人生で何のバランスが崩れているんだろう?…」。
もしこの内なる探究でヒントや答えがみつからなかったら、その特定の食べ物を食べてみればよいのです。
しかし、その食べたいものを禁じたり、罪悪感を抱かないようにするためすぐに飲み込んだりするのではなく、ゆっくりと慎重に、意識しながら食べ、一口ごとに、「この食べ物がこんなに好きな理由は何だろう?どんなところに魅せられているんだろう?どんな味、どんな食感が気に入っているんだろう?何か呼び起こされている記憶はあるだろうか?」と自問する必要があります。
ジョンストン『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』星和書店
「身体が欲しがっていると感じるもの(ひょうたん型の容器)」、ではなく、「心や魂が必要としているもの(ハート型のバスケット)」を明確にしていく心の作業がすごく大切なのです。
「必要としているもの」は、表面的な欲望(過食衝動)の下に隠されていて、それがわからないうちは、「満たされない感じ(渇望)」に苦しめられ、飽くことなく満足を求めつづけ、過食衝動に振り回されてしまい、消耗してしまいます。
「衝動の波に乗った」ままで5分から10分ほど内面を探り、「私は何を感じているだろう」「何を避けようとしているのだろう」「私が本当に必要としているのは何だろう」と問いかけてみることが必要です。(8つの秘訣)
「必要としているもの」に焦点を当ててみると、多くの場合、過去に満たされなかった愛や思いやり、受容に関連しています。
「必要としているもの」が得られれば、苦しみから、過去の痛みから完全に解放されるという空想にとらわれてしまわずに、空想は空想のままで心の中で抱えておくことができる「自我の強さ(心の枠組みを拡げる)」を培う必要があります。
そして、「必要としているもの」が得られたときにどんな心の状態(気持ち)を感じるか、それは穏やかさとか暖かさ、あるいはちょっと切ない愛おしさかもしれません。
その心の状態(気持ち)を自分自身に与えることができるようになることが、摂食障害から回復するための一番大切なポイントになります。
このプロセスは、「獲得安定型の愛着」を形成していくプロセスでもあり、「摂食障害」だけでなく、「気分変調症」や「不安障害」、あるいは「不安定型愛着(愛着障害かもしれないと思っていらっしゃる方ではありません)」から回復していくときの最後の重要なプロセスでもあるのですよ。
院長