摂食障害の心と魂の飢えを癒す
[2017.11.20]
『拒食症・過食症を対人関係療法で治す』には、「過食から先に治そうとすると、「本当の問題」の解決に使うエネルギーが無駄に使われてしまって、結局は治りが遅くなります」と、「患者さんが直視しなければならない対人関係の問題」がストレスになるため、対人関係問題の解決が課題になるとされています。
「過食症」「むちゃ食い症」の患者さんの多くが、対人関係を含む外的な出来事よりもむしろ、内的な出来事(思考によって引き起こされた身体の状態)を独特に解釈した結果ネガティブな気持ちになり、過食で紛らわしたり、嘔吐でなかったことにしたりしていますよね。
自己主張は、乱れた食行動から解放されるための最も大切なスキルです。 自分が心のストレスゆえに食べているのか、身体的な空腹感から食べているのかを認識できるようになると、食べ物や食行動以外の対処スキルが必要になります。 食事療法が効果的でないのは、乱れた食行動の引き金となる感情や根底にある問題に対処せずに、行動だけを取り除こうとしてしまうからです。 ジョンストン『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』星和書店三田こころの健康クリニック新宿の専門外来で行っている対人関係療法にもとづく摂食障害の治療では、「自分の心を振り返る」と「自分の心の状態を通して相手の精神状態を把握する」を土台にして、自分自身の身体の状態を把握することで、自己の心と体の関係に対しての「洞察(アウェアネス)」が深まっていきます。
乱れた食行動の苦しみから解放されたいと切望している女性は、食べ物だけが自分に栄養を与えてくれるというのは錯覚にすぎないと見抜かなければなりません。 体の飢えと象徴的な飢えとの区別ができないと、このお話に出てきた農夫のように、ごまかしに引っかかりやすくなってしまいます。 このふたつの飢えの違いを理解できないうちは、食べ物やカロリー計算に必死にしがみつき、乱れた食事パターンを手放そうとはしないでしょう。 ジョンストン『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』星和書店「身体的な飢え」と「精神的(象徴的)な飢え」の区別をしていくことは、自分自身との関係の中でも「心で体を思うこと(体への思いやり)」のうち、「満たされなさを感じている心理的な希求と身体の状態(空腹)を混同しないこと」に相当しますよね。(『摂食障害の月経前症候群と月(身体)のリズム』参照)
心の催促にだけ耳を傾けて体からのメッセージを無視してしまうと、本当は何か違うものが欲しいのに、食べ物に飢えているのだという考えに簡単に騙されてしまいます。 (中略) 体の飢えと心の飢えを識別する能力は、乱れた食行動で苦しむ人たちが学ばなければならないとても大切なスキルです。 ジョンストン『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』星和書店「心の飢え(空虚感)」を「身体の飢え(空腹感)」と錯覚し、自分を満たそうというまさにその試みが、さらなる苦痛を生みだすだけでなく、何かを満足させようという企ては、さらに強い空腹感や渇望をもたらします。 食べ物や飲み物は、満たされなかった欲求を満たしてはくれないということなのです。
では、私たちは皆、一生運び続けるふたつの容器を持っていると想像してみてください。 ひとつは食べ物と水を運ぶためのひょうたん型の容器で、もうひとつは人生を有意義で充実したものにしてくれるものを運ぶハート型のバスケットです。 ひょうたん型の容器は体の糧が必要なときに食べ物で満たされます。 そして、バスケットは心の糧が必要なときに、他人からの注目、愛情、感謝など、心と魂が必要とする「食べ物」で満たされます。 乱れた食行動に出てしまう女性は、このふたつの容器の区別ができていません。 何かに飢えていると感じたら、とにかく食べます。そしていつの間にか、容器の閉じ目ははちきれそうになっています。それなのにまだ、どういうわけかお腹が空いていると感じるのです。 ひょうたん型の容器はいっぱいでも、ハート型のバスケットが空っぽのままということに気づいていないからです。 ジョンストン『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』星和書店ジョンストン先生は面白いたとえを挙げていらっしゃいますね。 「身体的飢え(ひょうたん型の容器)」と「精神的な飢え(ハート型のバスケット)」を満たすものはそれぞれ異なります。 「身体的飢え(ひょうたん型の容器)」を満たすのは食べ物で、「精神的な飢え(ハート型のバスケット)」は心と魂が必要とする滋養で満たすのです。
二種類の空腹感があるというのは本当です。 ひとつはお腹からくるもの、もうひとつは心からくるものです。 お腹の空腹は食べ物で満たされなければなりませんが、心の空腹は愛情や心の糧で満たされなければなりません。 身体的なお腹の空腹と精神的な心の空腹の違いや、食べ物へのニーズと精神的な糧へのニーズの違いを認識してそれぞれに対応した術を学ぶと、もう太ることに怯えて神経をすり減らす必要がなくなります。 (中略) 乱れた食行動からの回復への道のりには、自分の体と調和が取れている状態、つまり体の英知が尊重され、体への信頼が回復された状態に戻ることが必要不可欠です。 そこにたどり着くには、まず、どうやったら体からのメッセージを受け取れるのかを学ぶ必要があります。 ジョンストン『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』星和書店「体への思いやり」プログラムでも、二種類の空腹感の区別をした上で、身体的な状態をありのままに受け止め、解釈ではなく比喩として理解することで「精神的な糧(スピリチュアルな滋養)」へのニーズを認識していきますよね。 「精神的な糧(スピリチュアルな滋養)」は、「ジャッジメントを離れた自覚(アウェアネス)」と呼ばれます。 摂食障害の対人関係療法で培っていくのは「自覚(アウェアネス)」で、この「精神的な糧(スピリチュアルな滋養物)」は、自分が自分自身の安心基地となり、自分自身に安定した愛着(精神的な糧)を向けることができる獲得修正型の愛着スタイルを築いていくことでもあるのですよね。 院長