メニュー

身体の空虚感と心の空腹感

[2017.04.24]

摂食障害から回復するための8つの秘訣』の「秘訣3 食べ物の問題ではありません」には、「摂食障害は特定の食品が問題になるものではなく、食べ物への依存症でもない」と書いてあります。

摂食障害の患者さんに依存症のための12ステップモデルが使われるけれども、摂食障害は特定の食べ物や食品が依存症を引き起こしているのではないことに注意を促されています。

さらに12ステッププログラムの手法の中には、摂食障害の治療で役に立つものが含まれていると同時に、「全か無か」のような二分的思考など、摂食障害から回復するときに妨げになったり有害に作用したりする部分もあることも注意を喚起されています。

 

摂食障害はクセや依存症なのか』で「摂食障害は本当の問題を見えなくしてしまう行動依存」ということを説明しました。

問題は食べ物ではありません。

乱れた食行動を克服するには、衝動を引き起こす本当の飢えを見つけなければなりません。乱れた食行動とその衝動は、真のニーズや心の奥深くに眠っている欲求を象徴しているにすぎないのです。依存的に食べているときこそ、何かに対する飢えが象徴的な形となって提示されているのであり、本当の飢えは何なのかを考えなければならないのです。特定の食べ物を排除したり食行動を制限したりすると、逆に、象徴の背後にある真の意味を学ぶ機会を失ってしまいます。
食行動に依存している人というのは、心や魂の飢えに苦しんでいます。食べ物に対する強い欲望は、実は、心や魂が糧を求めているのです。

(中略)

乱れた食行動を克服するには、飢えているということをまず認識しなければなりません。自分が必要としている食べ物は、物質的な食べ物ではないという理解が必要不可欠です。精神的な飢えを認識して、それが象徴するものを認識できてはじめて、本当の意味で飢えを満たすことができます。

ジョンストン『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』星和書店

摂食障害行動(乱れた食行動)が覆い隠そうとしている「本当の問題」は、「心や魂の飢え」です。
大切なことは、「欲しいもの」と「必要なもの」をきちんと区別することです。

 

「心や魂の飢え」、つまり「心の空虚感(必要なもの=糧)」を「身体の空腹感(欲しいもの)」と錯覚してしまうところに摂食障害のカテゴリー・エラーが潜んでいますよね。

どれだけアイスを流し込もうと、どれだけクッキーを食べようと、どれだけマフィンをむさぼろうとも、欲望を満たすことはできません。なぜなら、食べることで満たされているのは胃であって、心や魂ではないからです。
乱れた食行動を克服するには、飢えているということをまず認識しなければなりません。自分が必要としている食べ物は、物質的な食べ物ではないという理解が必要不可欠です。
精神的な飢えを認識して、それが象徴するものを認識できてはじめて、本当の意味で飢えを満たすことができます。

ジョンストン『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』星和書店

 

摂食障害行動(乱れた食行動)を使って満たそうとしているのは、身体的な空腹ではなく「心や魂の飢え」による「渇望」であり、「心や魂の飢え」を満たす必要なのは物質的な食べ物ではなく「精神的な滋養」であることを認識する必要があります。

 

8つの秘訣』(P.104〜107)には「さらに深く見つめて、あなたの摂食障害を引き起こし続けている要因を知ろう」という項目があり、「本当の問題リスト」が挙げられていますよね。

これらの「本当の問題リスト」は患者さんによっては取り組むのがすごく辛いと感じられます。

 

それはその通りで、「心や魂の飢え」からくる「渇望(本当の問題)」が引き起こす「不安や抑うつ」を摂食障害行動を使って抑圧している状態では、「自分を見つめるまなざし(健康な部分)」が「不本意な行動をする自分(摂食障害の部分)」に対して憤りを表出させ衝突が起きているからなのです。

摂食障害の部分に対する憤りは、不安(否認や分裂)によって抑制され、不安は自己否定(自責感)に変換されて顕れてきます。
それによってさらに不安や抑うつ状態が強くなり、ますます本当の問題を見えなくする「目くらまし」を引き起こし、次第に悪循環に陥ってしまうのです。

 

理想的な母親、つまり、慈愛にあふれ、苦痛を和らげ、ありのままの自分を受け入れてくれる典型的な「良い母親」を切望しているのも決して珍しいことではありません。
そしてこのような「何か」こそが、冷蔵庫の前に立って探しているものなのです。それが、買い出しの際に見つけようとする、本当に欲しいものなのです。

ジョンストン『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』星和書店

 

過食の引き金になるのは多くの場合ストレスではなく、過食の原動力といわれる「怒り(憤り=自責感)」や「罪悪感(罪責感)」は、「健康な部分」と「摂食障害の部分(渇望)」との衝突の結果であり、その奥底には実存的不安や抑うつが潜んでいて、それこそが摂食障害症状を使って全力で押さえ込もうとしている「心や魂の飢え」の正体だということですよね。

 

「ストレスがないのに過食してしまう」「何もすることがない時に過食がひどくなる」と感じられるときに、対人関係療法で取り組むように重要な他者に気持ちを伝えたとしても、あるいは入院して過食ができない環境に身を置いたとしても、「本当の問題」である「心や魂の飢え」を満たすために「必要なもの(糧)」が見えなくなる摂食障害のトリック(目くらまし)に引っかかってしまいます。

なぜなら、これらの対処法は「欲しいもの(他者からの承認や食べ物)は自分の外にある」と認識することにつながり、12ステッププログラムと同じように「全か無か」の二分的思考に陥りやすくなるからです。

 

三田こころの健康クリニック新宿では、従来の対人関係療法では対応できなかった「心や魂の飢え」を満たすための過食、つまり「ストレスがないのに過食してしまう」「何もすることがない時に過食がひどくなる」などの「嗜癖(クセ)になった過食」に対しても治療を行っています。
治療を希望される方は『素敵な物語』と『8つの秘訣』を読んでおいてくださいね。

 

院長

▲ ページのトップに戻る

Close

HOME