過食症や過食性障害からの回復の道のり1
過食や過食嘔吐からの回復には、クロニンジャーの「自己志向性」と「協調性」の両方を高めることが治療につながるとされています。
(『過食症の「自己批判」と回復に必要な「自己受容」』参照)
20回未満の対人関係療法で回復した患者さんから話を聞くと、「回復のきっかけは、「なりたい自分」という目標を見いだしたから」と話してくださることがすごく多いのです。
どんな自分になりたいか?は『8つの秘訣』の「秘訣1 回復への動機、忍耐、そして希望」に
今の状態を変えたとしたら、どんな将来が待っているでしょう。
なぜ、回復したいのでしょうか。
最終的には、あなたは、食べ物を生活の中のどんなところに位置づけたいのでしょうか。
などがありますし、「秘訣8 人生の意味と目的を見つける」にも「回復したある日」という練習があるように、なりたい自分に向かって人生の舵をきることは変化の動機づけと原動力になりますよね。
そのときに大切なのが肯定的な言葉をつかうということです。
A)「ネガティブに考えないようになりたい」
B)「ポジティブに考えるようになりたい」
2つのニュアンスの違いを感じてみてください。
A)では、なんとなく力が入ったような感じがするのに、B)では、ホンワカした感じを感じられますよね。
じつはA)のように否定語を使うことで、否定する部分が自分に対してジャッジメント(ダメ出し)が起きて、否定する部分がさらに強調されてしまい、自分の中で葛藤(闘争or逃走反応)を生みやすいのです。
葛藤(抵抗 or 回避)により、変化にともなう一次的な痛みが苦悩や苦痛に変わってしまうことで、変化が妨げられてしまうのです。(「秘訣1 回復への動機、忍耐、そして希望」)
『過食やむちゃ食いのメカニズムと身体』で説明したように、葛藤が身体を巻き込んだ反応を起こすことが知られています。
身体との関係をあつかえない治療は治療にならないだけでなく、身体との関係は過食(むちゃ食い)や過食嘔吐からの回復のみならず、トラウマからの回復や、愛着の修正にも必要不可欠な視点で、腹側迷走神経の支配領域である「社会的関わり領域」を拡げて、交感神経が活性化しても「闘争-逃走反応」が起きなくなることを目指していく必要があります。
三田こころの健康クリニックで過食症や過食性障害の患者さんに自分自身との戦いを終わらせ調和をもたらすこと、つまり「自分自身との関係を改善すること」が対人関係の調和をもたらす土台になるだけでなく、病気からの回復につながると強調しているのはこういう背景なのです。
『摂食障害から回復するための8つの秘訣』では、「秘訣2 自分の中の摂食障害の部分を癒やすのは健康な部分」で、健康な部分を使って摂食障害の部分と対話する練習をすることは、過食症や過食性障害から回復するための必要不可欠なだけでなく、回復した後の自分自身という羅針盤を作る作業でもあるのです。
「「やせたい気持ち」について話す」、「過食嘔吐について話す」など、日常的なストーリーを語る意識状態から、「いま・この瞬間」に展開している思考や感情、身体感覚を見守るプロセス体験に意識をシフトさせることで、この自己内対話が心で心をみる機能の発達を促すと同時に、自分を大切にする(セルフ・コンパッション)の土台である「自らの思考・感情・感覚に気づいていること(内省する力)」を育み、「自己志向性」の「自己受容」を培っていく必要があります。
対人関係療法の治療ではコミュニケーション分析を使いますが、これは言葉の使い方、表現の仕方などコミュニケーションスキルの練習ではなく、コミュニケーションに対するコミュニケーションの対人関係版でありその土台が「秘訣2」の自己内対話にあるのです。
そして自己内対話やコミュニケーション分析などメタ・コミュニケーションを育むことにより、言葉のとらわれ(自己呪縛)から抜け出す原動力にもなるのです。(「秘訣4 気持ちを感じて、自分の考えに抵抗してみよう」)
ここまでくると、自分を深く見つめて、摂食障害を維持している因子を探していきます。
本当の問題は、それまで当たり前と思っていた考え方や感じ方、あるいは過食(むちゃ食い)や過食嘔吐という行動を使って、何を求めているのか?ということを振り返ってみる必要がありますよね。
院長