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過食を抑えつけないことと心の枠組みを拡げること

[2016.06.13]

過食(むちゃ食い)や過食嘔吐などの摂食障害では、病気の発症要因よりも症状の維持要因に注目し、治療焦点としますよね。
さらに対人関係療法による過食症やむちゃ食い障害の治療では、過食やむちゃ食いを抑えつけないことを大前提にしますよね。

 

過食(むちゃ食い)を我慢するという試みは、一時的には効果があるように感じられると思います。

対人関係療法と自分との折り合い〜『8つの秘訣』補遺2』で書いたような

個人的要因:抑うつや不安、怒りなどの陰性感情、低覚醒状態(孤独、退屈)、衝動や誘惑
対人的要因:幸福感などの陽性感情状態に関連したもの(他者の幸せそうな姿を目にする)、対人的葛藤、社会的圧力

に対してのコーピング・スキル(対処能力)がないと、状況に対する無力感(自己効力感の減弱)から
良い気分になるには食べることが役に立つという不適応的摂食行動につながってしまいます。

 

たとえば、我慢できないほどの身体感覚(空腹感)や、ネガティブな感情におそわれて、禁止していた食べものを食べたりすると、「自分は意志が弱いから食べものを我慢できないんだ」とますますネガティブな感情状態になりますよね。

そのような思考に対する二次感情から楽な気持ちになろうとして、さらに過食(むちゃ食い)を繰り返し、コントロールできない摂食障害行動にはまりこんでしまうのです。

自らの問題を解決しようというまさにその試みが、皮肉にも患者の問題を維持している。
このことは臨床的な経験からみて明らかである。
試みた解決策が真の問題となるのだ。
Brief Strategic Therapy: Philosophy, Techniques, and Research

過食やむちゃ食いが起きやすいのは、

怒りや不安、抑うつなど否定的な感情を抱いているとき
周囲からのプレッシャー(対人関係での衝突など)に対応しているとき
食べものがすぐに手に入るとき(環境刺激)

であることが明らかになっています。

しかし過食やむちゃ食いのある人もそうでない人も自覚されたストレッサーの数には変わりがないのですが、過食やむちゃ食いのある人は、1つの出来事をよりストレスフルであると感じることが多いという報告があります。

つまり感情刺激や対人刺激、あるいは環境刺激、そのものが過食やむちゃ食いの引き金になるのではなく、対処できないと判断した主観的な脅威(無力感=自己効力感の減弱)が食物摂取に関してのコントロール能力を奪っているのです。

 

対人関係療法では、コミュニケーションを通じて「自分のまわりの状況(とくに対人関係)に変化を起こすこと」に取り組み対処スキル(自己効力感)を高めていきますよね。

それと同時に、三田こころの健康クリニックで「心の枠組みを拡げる」と呼んでいる変えられない状況を受け容れる冷静さが必要になります。

 

過食症やむちゃ食い障害でカウンセリングを受けたことがあったり、現在もカウンセリングを受けている人もいらっしゃると思います。
話をして、聞いてもらって、共感してもらって、スッキリはするけれども、過食がなかなか治らない人も多いのではないでしょうか。

この場合、心の中で感情を抱えておくことができないと、話を聞いてもらうことで、心の中の葛藤が減りますよね。
しかし心の中で気持ちを抱えられないため、話を聞いてもらうことでしか対処できないパターンが続いてしまうのです。

つまり過食をすることで一時的に陰性感情が減るけれども、陰性感情を減らすために過食をするしかなくなるということと同じ構造になっていることに気づくことが重要ですよね。

 

「感情を指標に現実を変えていく」ことが言われますが、正確に言うと、現実を変えていくために必要なのは、能動的でオープンな態度で状況に向き合う積極性を持った心なのです。

嫌な気持ちを感じないように感情によって行動することではなく、耐えられないと感じた否定的な感情を誰しも感じる耐えられる痛みに変えていく心の態度が、「心の枠組みを拡げる」という取り組みなのです。

これが「責任=レスポンス(対処する)+アビリティ(能力)」で、無限の選択肢の中から、自分の行動を選ぶことができる、自分の人生を向上させるためにどのように活動するかを選んでいるという継続的なプロセスでもあるのです。

 

夜と霧』や『それでも人生にイエスと言う』で有名なヴィクトール・エミール・フランクルは

刺激と反応の間には、スペースがあり、そのスペースこそ私たちが反応を選択するための力である。
私たちの反応に成長と自由があるのはそのためだ。

と言っています。

つまり過食症やむちゃ食い障害(過食性障害)から回復するためには

・状況が対処可能かどうか、全体をみる視点
・状況に対して対処する勇気と対処スキルを高めていくこと
・変えられない状況を受け容れる心の枠組みを拡げること

などの心の態度が必要ということですよね。

院長

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