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過食症とむちゃ食い障害(過食性障害)の最新事情

[2016.06.27]
拒食症・過食症を対人関係療法で治す』には、過食症の人の気質として、「新奇性追求(冒険好き)」と「損害回避(心配性)」の高さ、性格では「自己志向(自尊心)」の低さが特徴としてあげられています。 ところが、『過食症やむちゃ食い障害の対人関係療法のすすめ方』で
最近の過食症やむちゃ食い障害の人の中には『拒食症・過食症を対人関係療法で治す』に書かれているような「冒険好き(新奇性追求)」スコアが高い人はほとんどいらっしゃらない。
ことを書きました。 これが臨床の場面にどういう影響があるかというと
それが単なる回復期の過食なのか、新たな過食症状の始まりなのか、その判別ができないと治療の方針を誤ることにもなりかねません。本人も心配になります。 「冒険好き」スコアが低い患者さんの場合には、安心してどんどん食べてもらえます。 このように、患者さんの「性格」を知ることは、その後の経過を予測する上でもとても役に立ちます。 水島広子『拒食症・過食症を対人関係療法で治す』紀伊國屋書店
と書いてあるのですが、三田こころの健康クリニックで診ていると、「冒険好き(新奇性追求)」が低いので回復期の大食・飢餓過食だろうと思っていたところ、過食症に移行した患者さんが何人もいらっしゃるのです。 それと同時に、拒食期を経ない過食症の方にも「冒険好き(新奇性追求)」が低い人がほとんどなので、「心のブレーキを外すトレーニング」がうまくいかないのです。 (ブレーキを外してもアクセルがかからず行動できない)   最近の「過食症(自己誘発嘔吐を伴う)」や「むちゃ食い障害(過食性障害:嘔吐を伴わない)」の人、あるいはダイエット中に通常食事で自己誘発嘔吐したことをきっかけに嘔吐が続いてしまう「排出性障害(嘔吐するための大食+過飲をともなう)」の人は、「新奇性追求(冒険好き)」は低く、「損害回避(心配性)」が高く、「報酬依存(人情家)」はほぼ平均、「固執」は高い人が多いのです。 「冒険好きは高いと思っていました」と半数近くの患者さんがおっしゃるのですが、患者さんが感じていた冒険好きは衝動性のことであって、「「固執」の高さ(強迫性ー衝動性)」に関与しているようなのです。   最近の過食症やむちゃ食い障害の人の「気質」では、
積極的ではなく消極的で、不安を感じやすく、不安や抑うつ気分を自分で調節するのが難しいだけでなく、人からの評価に敏感になりやすいため、自分なりの決まりを作って行動するようになる。
という回避的・強迫的な特徴が見られます。 また性格では「自己志向(自尊心)」が低く「協調性」は異常に高く、「自己超越(精神性)」は低い〜平均が特徴です。
他者への気遣いというより「こうに違いない」と想像上の他者の価値判断や評価に敏感になったり、自分自身の行動の基軸がないので主体的な行動するわけではなく、対人関係を避けようとしてしまう人が多く、「過食したい」など自分の感覚を重視するようになると、周りから何を考えているかわからない人と見られやすい。
という依存的・気分屋的な特徴があるのです。   三田こころの健康クリニックでは初診の時にクロニンジャーの七因子モデルの検査を行っているのですが、上記の「気質」はほとんどの人が、「そうです!当たってる!」とおっしゃってくださるのですが、「性格」に関してはピンとこない方が多いようです。 これは自己認識・自己受容と目的志向的な行動である「自己志向性」の低さとともに、「自分を客観視できない」ということと関連しているようです。 「協調性」は社会関係において示される他者の認識と受容なのですが、「協調性」が標準偏差を超えて高くても、現実の社会生活や対人関係には回避的ですから、頭の中の他者のことしか見ていないので、自分を見ることができないのです。 実際にアレキシサイミアの検査をしてみると、自分の気持ちを感じられなかったり、言葉にできなかったり、あるいは感情を抱えておくことができない人がほとんどで、抱えておけなくなった感情を過食や過食嘔吐をつかって解消している、ということなのです。   つまり、過食や過食嘔吐は現実のストレスを反映しているのではなく、想像上の対人関係や自分の中のネガティブな感情がストレスになっており、ネガティブなとらえ方を抑圧したり感じなくするための過食(むちゃ食い)やなかったことにする嘔吐が主な症状となっているようです。   どこかで書いたと思いますが、過食症の人は健常人と比べて、ネガティブな出来事やストレスフルな出来事が多いわけではなく、
過食の衝動が起こるのは、不安や不満が強いときや、退屈を感じるときなどが多いのです。 水島広子『拒食症・過食症を対人関係療法で治す』紀伊國屋書店
と書かれているように、日常的な出来事をネガティブに捉えたり、ストレスフルな出来事と感じたりしやすいということが、過食症やむちゃ食い障害の対人関係療法の治療焦点になるということですよね。 院長
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