摂食障害と育てられ方は関係するのか
「自尊心」の低さを作り出すものとして、虐待をはじめとする「育てられ方」の問題が挙げられます。
最も頼りにすべき実の親から虐待を受けた、「産まなければよかった」と言われた、などというのは、「自尊心」を決定的に下げる原因となります。
じぶんなんて生まれてくるべきではなかったなどと思ったら、自分の存在を肯定する気持ちになれるわけがありません。
また、ふつうであれば子どもをかわいがるはずの親から否定されることで、「自分は人間としてできそこないなのだ」「自分はどこかおかしいにちがいない」という感覚を植え付けられることにもなります。
(中略)
また、過保護にされた場合にも「自尊心」は低くなります。
と書いてあります。
このような生育環境に関連した心理的な要因で摂食障害が発症してくると考えられていたのですが、最近の研究では、どうも違うらしいということがわかってきました。
クルンプ(Klump)らが行った摂食障害の双生児研究で、子どものうち(思春期前まで)は、生育環境要因の関与がほとんどなのですが、思春期を過ぎると生育環境要因の関与が減ってきて、個別環境要因(学校や交友関係など外の世界との関係)や遺伝的要因の関与が大きい(50〜80%)と報告されています。
『アタッチメントと生まれつきの要因』で書いたことも同じなのですが、「子どもの心の問題は、家庭問題が反映されている」ことは心理学の分野でもコンセンサスが得られていることから、前思春期の摂食障害(とくに拒食症)では個人療法ではなく、家族療法での効果が見られるのです。
ところが、青年期(思春期〜成人期)での心の問題は、遺伝的要因(クロニンジャーの「気質」)と個別環境要因(環境や対人学習の結果である「性格」)の相互作用で摂食障害などの心の病気が発症してくると考えられています。
たとえば対人関係療法では、「うつ病は対人関係文脈の中で発症してくる」と考えますよね。
家族や夫婦関係の葛藤(役割をめぐる期待の不一致)や、ハラスメントや仕事を抱え込んでしまう(役割の変化)などが対人関係療法での治療焦点に選ばれることが多いのはそのためです。
さらにこれらのストレスは、持って生まれた気質と行動パターンが問題が起きやすい環境とマッチしやすいために起きると考えられています。(鍵と鍵穴の関係)
では摂食障害では、どのような「遺伝的要因」と「環境要因」が関与していて、それらがどのように相互作用を起きているのでしょうか?
よく知られているところでは「よい子がなりやすい」ということで、「完璧主義」、「自己評価の低さ(認めてほしい)」がいわれていますよね。
このうち、「完璧主義」はクロニンジャーの気質でいうと「高い固執」や「低い新奇性追求(冒険好き)」「高い損害回避(心配性)」「低い報酬依存(人情家)」で特徴づけられ、自分で決めたルールによって縛られてしまうのです。
そのような子どもの親の側にも多分に似た傾向があり、子どもに対して期待が高く、理想通りにならないと批判的なコメントをしてしまういわゆる「条件付きの愛情」を向けるタイプですよね。
子どもの側も親から支配的な干渉を受けたり、批判されたりして自己評価がますます下がってしまう可能性が高いわけです。
さらに母親の側にも摂食障害や食行動の問題がある/あったことも多く、食事を子どもの気持ちを慰めるため、あるいはご褒美といった目的で使うことが多かったという報告もあるのです。
つまり、子どもの気持ちをしっかりと感じ取ることが苦手な親が、食べ物や食べることをコミュニケーションの代理手段として使うと子どもは満たされなさを食べるという行為で埋め合わせることを学んでしまいます。
さらに母親の完璧主義は、自分の食の問題での不安から良かれと思って子どものことを過剰に心配しまい、干渉してしまいやすいということもわかっています。
『ありのままの自分と向き合う』で書いた「人生早期の対象関係における感情交流が欠如したためではないか」というのは、こういうことなのです。
シュタイン(Stein)らは、母娘の食事場面を録画したビデオ・フィードバックと親子カウンセリングを比較して、ビデオ・フィードバックをした母親の方が食事時間の葛藤が大幅に減っていたと報告しています。
つまり、自分自身の不安がどのような行動に結びついているかを客観的に見ることで、行動を変えることができるということですから、三田こころの健康クリニックでの対人関係療法による治療でも「自分の気持ちをよく振り返る」自己モニタリングを強調するのはこのためなのですよ。
院長