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対人関係療法でみていく「元々、どんな人だったのか?」

[2014.12.15]

「生活史をくわしくとるな。それはわかってもどうせ変わらないのだから。」

という言葉を発する精神科医の存在に、吉松先生は嘆き失望されたことが論文に書かれていました。

 

水島先生も

IPT(対人関係療法)は「現在の」対人関係に焦点を当てる、パーソナリティは治療の焦点としない、というところにとらわれるあまり、過去の人間関係の聴取やパーソナリティを軽視する治療者がいる。
たしかにIPT(対人関係療法)は現在の対人関係に焦点を当てることが重要な特徴であるが、そのことは、過去の対人関係療法についての情報を軽視することとは異なる。
水島広子「うつの対人関係療法の正しい理解」こころの科学 117: 41-44, 2014, 日本評論社

と述べておられます。

 

三田こころの健康クリニックでの対人関係療法の初診では、発達障害などの生来的な特性だけでなく、生活状況を含め、コミュニケーションスタイルや対人関係パターン(愛着スタイル)を詳しくみていきますよね。

三田こころの健康クリニックでは、元々どんな人が、人生のどのあたりからどういうきっかけで、どういう病気を発症したのかという診断を下し、それが現在まで続いているのはなぜなのか、とか、どこをどのように変えていけば、どう治っていきそうか、ということまで初診の時に説明していますよね。
(他所の医療機関に通院中の方は、そういう説明を受けたことがないと思います)

 

そもそも、患者の予後の決定因子は「生活状況であり、その生物学的総和である」とサリヴァン先生もおっしゃっていますし、さらに精神医学的面接は、面接者と被面接者の「専門家(治療者)—依頼者(患者)関係(二者関係)」であり、「患者の生の特徴的パターンを明らかにする」ことを目的としています。

とくにトラウマ関連障害であれば、現在の対人関係(愛着関係)において外傷性侵入的記憶(フラッシュバック)などの症状のきっかっけとなった出来事と、以前のトラウマ体験との関連(リエナクトメント:再演)タルボットらのいう「対人パターン」としてとらえ、トラウマの内容ではなくプロセスを重視することが、現在の対人関係の修正を発展させることにつながります。

たとえば、幼少期に虐待を受けていた人と、安定した愛着の中で育った人とでは、現在の対人関係の出来事についての解釈は異なるだろう。
そして、もちろん、現在の対人関係のストレスへの対処の仕方も異なるはずである。
また、どんなパーソナリティをもっているかによって、ある出来事ややりとりの受け止め方も違ってくる。
生育歴を詳細に聞いていくことで、発達障害をみつけることもある。
水島広子「うつの対人関係療法の正しい理解」こころの科学 117: 41-44, 2014, 日本評論社

と、「対人パターン」に目を向けると「元々、どんなひとだったのか」という全体像が見えてくることを強調されています。

 

いわゆる「過剰適応」といわれるものが、他者からのネガティブな評価を怖れてのものなのか、社会性の障害によって「自分にどこまでが要求されるのかが読めない」ということの結果なのか(もちろんその場合でも前者の怖れは含まれる)ということも、詳細に聞いていくことで把握することができる。
水島広子「うつの対人関係療法の正しい理解」こころの科学 117: 41-44, 2014, 日本評論社

 

そうやって病歴を訊いてみると、「感情的な抑制のために「何を伝えられれば最も良いのか」ができていない」(「社会的に適切なコミュニケーションのあり方」の欠如)という問題領域が見えてくることがあります。

そのような「感情的な抑制」が、「自分を傷つける評価を怖れ」た結果(学習性無力感)なのか、「社会性の障害」によるのかを区別していく必要があるのは、それが対人関係療法で焦点を当てていく治療焦点に密接に関わるからなのです。(『摂食障害の回復と「評価への過敏性」の2つの次元』参照)

 

たとえば、病歴からみると「評価への過敏性」だけれども、日常生活を詳しく聞いていくと身近な人たちとの間で、何を言ってもムダという「役割期待の不一致(不和)」の「行き詰まり」の段階ということがわかることもよく経験することです。

しかしここで「役割期待の不一致(不和)」を治療での焦点とする問題領域とするかどうかも、過去の対人関係パターンを考慮する必要があります。

 

たとえば過干渉で押しつけがましい親との関係で学習性無力感に陥っている患者さんに対し、治療者が患者さんに対し伝える事を強要しすぎると、患者さんが体験した過去の人間関係の再演になってしまいますよね。

ここで重要なことは、患者さんが、「役割期待の不一致(不和)」という出来事を「どう体験しているのか」がキーポイントで、患者さんの体験のありよう(心的現実)に合わせて、場合によっては、「役割の変化」とフォーミュレーションして「不和」を扱っていくこともあるのです。

 

これが対人関係療法で強調される「結果でなくプロセスを重視する」ということなのですが、このようなアレンジは対人関係療法に熟練しないと難しいので、「「対人関係療法」と称する治療を受けたけどよくならない」人は、一度、三田こころの健康クリニックに相談してみて下さいね。

院長

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