虐待と愛着(アタッチメント)2〜反応性愛着障害
前回のエントリーで、愛着(アタッチメント)という行動制御システムの基本は、母親との対人関係(分離と再接近:ラプローチメント)にあるということを書きました。
愛着の研究で有名なエインズワースらは、ストレンジ・シチュエーションでの子どもの行動観察で(見知らぬ部屋で見知らぬ人と置き去りにされた子どもの親との再会反応)愛着行動を分類しています。
『成人のアタッチメント・スタイル』のエントリーで触れた、ストレンジ・シチュエーションによる観察での乳幼児のアタッチメント・パターンは以下のように分類されています。
なお、この表にはタイプD「無秩序・無方向型」は含まれていません。
このタイプDの子どもは、同時的に(たとえば、顔を背けながら養育者に近づこうとする)、あるいは継続的に(例えば、養育者にしがみついたと思うと、床に倒れ込む)など、近接と回避という本来なら両立しない行動をみせることが知られています。
また不自然でぎこちない動きを示したり、タイミングのずれた場違いな行動や表情をみせたりします。
さらに、うつろな表情を浮かべつつじっと固まって動かなかったり、養育者の存在に怯えているような素振りを見せることがあり、逆に、初めて出会う実験者などに、より自然で親しげな態度をとることも少なくないと言われています。
また、タイプDの子どもの養育者については、これまでの研究で、抑うつ傾向が強かったり、精神的に極度に不安定だったり、子どもへの虐待など危険な徴候が多く認められることが報告されています。
Dタイプの子どもと、成人アタッチメント・インタビューによって「未解決型」に分類される養育者との間に、特異的な関連性があることが明らかになっており、過去に何らかのトラウマを有し、それを解決し得ていないタイプと考えられ、「アタッチメント関連性トラウマ」という概念が提唱されています。
愛着(アタッチメント)の障害について、ジーナー(Zeanah)らがDSM-IVとは別の診断基準を作っています。
エインズワースの愛着行動と比較してみると、ジーナーの言う「抑制された」と「愛着剥奪による障害」は「回避型」に相当するようで、抑制型と共通項がみられ「自分を危険にさらす」と「役割の逆転」は「アンビバレント型」に相当し、脱抑制型に似ていますよね。
ネグレクトも含む虐待などにともなう「反応性愛着障害」の子どもにみられる症状として
・激怒反応(恐怖と不安が根底にある)
・欲求不満に自制が利かず反抗的・反社会的
・共感・同情心がとぼしく、友人ができない
・自分や人生に否定的・消極的
・見ず知らずの人に甘え、自分を愛そうとする人に抵抗する(愛情を抑圧と判断)
・食べ物に難点を示す(暴食、偏食)
・良心が育っていない(嘘をつく、弱い者いじめ)
が挙げられており、これは「アンビバレント型」の行動パターンであり、また「自分を危険にさらす」「役割の逆転」という脱抑制型に相当するみたいですよね。
さらにジーナーらはアタッチメントのタイプと愛着障害の関係について、適応との比較での図を作っています。
『成人のアタッチメント・スタイル』のエントリーで、アタッチメント・スタイルを含む心理行動システムは、相互に関連しあって全般的な適応性を支えているのであり、「自律・安定型」のみがすべての心理社会的適応性をみたし、それ以外は非適応的ということではないということを書きましたが、この図からも理解出来ますよね。
院長