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愛着(アタッチメント)と対人的心的外傷(アタッチメント関連トラウマ)3

[2012.11.12]

アタッチメント関連トラウマ」は、PTSDだけでなく、ハーマンのいう「複雑性PTSD」やヴァン・デア・コークのいう「DESNOS」の概念も含む、アタッチメント対象との間の別離や葛藤による傷つき体験でした。

これが成人のアタッチメントスタイルで「解決の喪失/トラウマ(未解決型)」とされるもので、PTSDの共通点についてみていきながら、「アタッチメント関連トラウマ」ではどうなのか、を考えていきましょう。

 

トラウマティックな体験を十分にうまく対処し、ふつうの生活に戻る人(サバイバー)がいる一方、トラウマティック名出来事の再体験に傷ついたままで、通常の諸機能が崩壊してしまう場合、PTSDという診断になります。
PTSDと「解決の喪失/トラウマ(未解決型)」には、以下の共通の特徴があるといわれています。

トラウマティックな体験についての記憶が、一貫した自叙伝的ナラティブにうまく統合されない。
トラウマティックな記憶と結びついた、つらい情緒の回避あるいは解離。
好発するトリガーあるいはストレスフルな出来事に遭遇したとき、覚醒亢進症状(驚愕反応、睡眠障害、爆発的な怒り、集中力低下、過度の警戒)を体験する傾向、あるいはストレス反応の増大。

トラウマに関する記憶を統合できないのは、PTSDと未解決型の両者の特徴と言われています。

 

認知理論では、トラウマについての記憶が恐怖のあまり断片化し、その断片に対して過剰に恐怖心が引き起こされるために、些細な誘因から不安発作が生じてしまい、さらに認知的コントロールが効かなくなると説明されています。

PTSD患者や「未解決型」では、情報処理過程に問題が生じていて(話法モニタリングや推論モニタリングの誤り)、蓄えられているトラウマ記憶を思い出すときに回避や情緒的麻痺、解離症状や現実感喪失、離人感などを生じ、出来事の認知的・情緒敵処理が遅れ、結果として解体したトラウマ性の記憶として残ると考えられています。

 

ちなみに。
暴露(エクスポージャー)療法の理論では、正確に外傷体験を想起することで過剰な不安を消し去ることが、治療につながるとされていますが、19世紀後半のフランスで子どもが性的虐待を報告したとき、それは「偽記憶」の可能性があるという議論がすでになされていて、実際、20世紀後半のアメリカでは、自分の子どもから身に覚えのない虐待の事実を突きつけられて、裁判にまで発展する事態が実際に急増したことはよく知られています。
ヴァン・デア・コルクら『トラウマティック・ストレス』

語ることは他者との協働作業であり、治療の中で語られた体験は、治療者との相互関係で生み出された情報ですから、患者の報告する外傷についての具体的内容は、そのまますべてが事実ではなくなんらかの脚色がなされている可能性がある、ということは、前提として理解しておく必要がありそうですね。

 

さて、話をもどして。
「アタッチメント関連トラウマ」では、PTSDや「解決の喪失/トラウマ(未解決型)」同様に自分の安全に対する大きな脅威をいつも感じると同時に、愛着対象の利用可能性(アヴェイラビリティ)に対する脅威のため、恐怖あるいは脅威の水準が複合的(ボゥルビィ「複合的恐怖」)であり、愛着対象を安全や癒しの場として用いる能力が大きく損なわれているため、解決が困難と考えられています。

このような「未解決のトラウマ」が対人関係に与える影響を次回、みていきましょう。

院長

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