摂食障害の治療〜神経性食欲不振症(拒食症)2
ご家族からの問い合わせでいちばん多いのが、「うちの子は拒食症みたいなのですが、病院に行きたがりません。どうやって受診を勧めたらいいのでしょうか?」というものがあります。
『対人関係療法による治療のすすめかた〜「治療の土台作り」〜予備面接1』でも触れたように、患者さんをいかにして受診させるかは、親御さんとして心を痛めるところですよね。
その場合、一番問題になるのは、死亡率が5〜10%といわれる疾患ですから、身体的に緊急を要するかどうかの判断です。
『対人関係療法による摂食障害の治療〜初診(インテイク)面接』でも触れましたが
は、内科的緊急入院が必要になります。
特に15歳未満の小児の場合は、身長に比して体重や体脂肪が少なく急速に全身状態が悪化しやすいため、①標準体重の80%以下(75%以下は緊急性が高い)、②徐脈や低体温、③月経停止などを加味して判断します。
また、やせをきたす器質的疾患に対する全身検査も必要です。
たとえば、
などを鑑別する必要があります。
拒食症の患者さんは、やせればやせるほど飢餓による困った心理や行動が増え、食に振り回されて、冷静に考えられない状態です。これを飢餓症候群といいます。
政策研究大学院大学の鈴木眞理教授の『摂食障害』という本に掲載されていた図がわかりやすいですね。
拒食症の場合は、体重と治療の動機づけが相関しますので、低体重を心配した親御さんがむりやりに受診させても長続きしないだけでなく、本当に治療が必要なときに患者さんが入院に抵抗し、身体的な危機が強まることもよくあります。
入院治療を含む身体治療を検討する目安としては、
①極端なるいそう(やせのこと):以下のいずれか
・BMIが14kg/m3以下
・標準体重の65%以下(例えば160cmで36kg以下)
・身長にかかわらず体重が30kg以下
②最近の低血糖発作
③歩行障害
④重度の低血圧・徐脈
・収縮期血圧が80mmHg以下、脈拍が50/分以下
となっています。
拒食症の場合は身体的な検査や身体的治療が最優先で、精神療法は体重がある程度回復してからなのです。
水島先生のクリニックでは、30kgが目安ですが、三田こころの健康クリニックでは日本摂食障害学会のガイドラインを参照し、標準体重の70%(BMI:16)を、対人関係療法外来での通院精神療法に取り組める目安とし、「身体管理が終わった方」という条件にしているのです。
下の図を見ていただいてもおわかりですよね。
(この図も鈴木眞理教授の「摂食障害」(日本医事新報社)からです)
次回は、家族からの受診のすすめ方と、患者さんへの対応の仕方について書いてみますね。
院長