摂食障害の治療〜自閉症スペクトラム障害1
これまでに「摂食障害と発達障害」と題して何度か書いてきましたよね。
摂食障害と発達障害(自閉症スペクトラム障害:ASD)は併存症なのか、自閉症スペクトラム障害の一部分症なのか、いまだに議論が分かれるところです。
信州大学の原田謙先生が書かれた『摂食障害の特徴を示す自閉症スペクトラム障害』(精神科治療学 27(5); 625-632, 2012)から3回に分けて、ダイジェストを解説してみますね。
カナー(Knner)が報告した自閉症児11例忠6例は、いずれも生まれたときから栄養をとらせるのに非常に骨が折れ、食物は子どもにとって外部からくる最初の侵害であり、自閉症児は、食べものを拒むという形で外界を遠ざけようと必死になっている、と述べています。
セルマック(Cermak)は、偏食などのASD児の食行動異常は、食べものの食感や匂い(臭い)、温度などへの感覚過敏が大きな理由として考えられると述べています。
このような偏食のような食行動異常がみられる一方で、
・同一性へのこだわり(過食と食物へのとらわれを含む)
・超然とした態度
・対人接触や社会的機能の稚拙さ
が、神経性無食欲症(拒食症)でもみられることから、ギルバーク(Gillberg)らは、自閉症と拒食症には共通の生物化学的障害があるのではないかと指摘しています。
近年の報告では、成人の摂食障害患者の約2割に自閉症スペクトラム障害が認めるとされており、食や体重への奇異なこだわりなどの摂食障害としては非定型的病像を示すと言われています。
実際、最近の神経心理学的研究では、
・実行機能(とくにset-shifting:状況の変化に直面した際の柔軟さ)
・中枢性統合(細部にこだわらず全体を把握すること)
・共感性(情緒的こころの理論)
という3つの領域において、自閉症スペクトラム障害と拒食症の類似性が指摘されており、身体の特定の部分への痩せへのこだわりやボディイメージの障害と関連するとみなされています。
しかし一方で、
・set-shiftingが劣るという所見がみられないという報告もあること、
・拒食症の症状の改善に伴ってこころの理論が回復すること
から、拒食症にみられる情緒的こころの理論の欠損は飢餓によってもたらされるものであると、オールドショウ(Oldshow)は結論づけています。
ということは、「状況の変化に直面した際の柔軟さ(set-shifting)」が劣っていない場合は、『対人関係療法による摂食障害の治療〜神経性食欲不振症(拒食症)1』にも書いたように、対人関係療法による拒食症の治療で「役割の変化」としてフォーミュレーションできるということですよね。
その場合、それまでの「自分一人で努力すればなんとかなる」というルールが通用しなくなって、混乱し、不安の悪循環により、安心を求めて低体重にしがみつくという病理につながっていますよね。
不安症状そのものをコントロールするのではなく、安心を提供し、「役割の変化」を乗りこえ、新たな役割におけるスキルを養うことが本質的な解決になる、という考え方で対人関係療法による拒食症の治療を
進めていくことができるということですよね。
次回は、自閉症スペクトラム障害における摂食障害の特徴について書いてみますね。
院長