愛着(アタッチメント)の意味
辞書で「愛着」を調べてみると『〈スル〉 心ひかれ思い切れないこと.あいじゃく. (類)執着・未練』と出て来ます。
Gooの類語辞書には、愛情と情愛と愛着の区別が載っていて、「愛着」とは、長い間親しんだ物などに心が強くひかれて離れられない気持ちだそうです。
一方、「愛着(アタッチメント)」も二者間、とくに親子の間の「愛情の絆」を意味するものと考えられていますが、もともとの意味は、文字どおり他の個体への近接(アタッチ)を通じて、安心感を回復・維持しようとする傾性のことですよね。
発達心理学の分野で愛着の研究のパイオニアとして知られるイギリスの児童精神科医であったボゥルビィは、個体が危機的状況に直面し、あるいは危機を予知して不安や怖れなどのネガティブな感情が強く喚起されたとき、特定の他個体にしっかりとくっつく、あるいはくっついてもらうことを通して、主観的な安全の感覚を回復・維持しようとする心理行動的な傾向を「愛着(アタッチメント)」と呼びました。
つまり、不安や怖れなどの感情の乱れを自己と愛着対象との間の関係性(二者関係:対幻想)によって調節する仕組みが愛着(アタッチメント)であり、愛着対象への接近可能性、愛着対象の情緒的応答性に関する表象モデルをボゥルビィは「内的作業モデル(internal working model)」と呼びました。
たとえば、危機に際して逃げ込み保護を求める「安全な避難所」としての経験が、子どもにとっての愛着対象は安心できる人として認識されますし、感情状態が落ち着きを取り戻したときにそこを拠点に外の世界に出ていくための安全基地として機能することになります。
こうした愛着経験(内的作業モデル)は内在化され、対人関係のテンプレート(雛形)となりますよね。
養育者との愛着関係を離れて、対人情報を知覚、評価、予測し、行動プランニングを行うことを「愛着パターン」と呼びます。
つまり対人関係のパターンの基盤となる対人世界に寄せる信頼や自尊感情が「愛着パターン」ということですよね。
一方、愛着対象である養育者(主に母親)の愛着希求に対しての情緒反応性を「ボンディング(bonding=絆)」とか、「母親からの愛着(Maternal attachment:マターナル・アタッチメント)」と呼びます。
愛着が成りたつためには、子ども側の愛着要求と愛着対象の情緒反応性が呼応することが必要なのですが、ここにはさまざまな問題が関与してきます。
子どもへの情緒反応性の問題を「ボンディング(絆)の障害」、子どもの愛着要求の問題を「愛着障害」、そして通常の二者関係の問題としての「関係性の障害」という3つのパターンに分けられます。
「対人関係療法のアセスメント〜愛着(アタッチメント)スタイル」やもうひとつのブログでも触れたことがありますよね。
愛着(アタッチメント)研究の流れも、愛着(アタッチメント)の質を個人の特性とみなす流れから、相対的に友人関係や恋愛・配偶者関係、およびそれらの中での孤独や葛藤、感情調節などなど、愛着(アタッチメント)を二者関係の特質や状態とみなす傾向が出て来ています。
対人関係の基盤となる「愛着パターン(あるいは愛着スタイル)」、そしてその核心である「内的作業モデル」の成長に伴う変化や適応、「愛着障害」や「アタッチメント(愛着)関連トラウマ」「発達性トラウマ障害」など「対人トラウマがかかわる疾患(PTSDなど)」との関係、「慢性うつ病性障害(気分変調症など)」の自尊感情との関係、それから対人関係療法では愛着をどう扱うのかなど治療への応用について、少しずつ書いてみようかと思っていますので、お楽しみに♪
院長