対人関係療法のアセスメント〜治療適応
対人関係療法は、うつ病や気分変調性障害、双極性障害などの気分障害と、トラウマ/PTSDなどの不安障害、摂食障害のなかでも過食や過食嘔吐などの神経性大食症(過食症)にエビデンスがありますよね。
三田こころの健康クリニックでの初診(インテーク)面接では、DSM(精神疾患の分類と診断の手引)もとづく構造化面接による診断を行い、I軸診断にもとづいて、治療の有効性のエビデンスを考えていきますよね。
たとえば、境界性パーソナリティ障害の場合、I軸診断として、うつ病や双極性障害などの気分障害や
トラウマ/PTSDなどのトラウマ関連障害だけでなく、行為障害(CD)、適応障害、注意欠陥多動性障害(ADHD)などを認めることが多いため、I軸診断の存在下では、正確なII軸診断が下せないということもあるので、II軸のパーソナリティは考慮しますが、治療焦点にはしていませんよね。
II軸のパーソナリティを考慮すると、妄想性、スキゾイド、スキゾタイパルなどのA群パーソナリティの患者さんの場合、治療者との有効な治療関係を結べない可能性があります。
たとえば、自閉症スペクトラム障害といわれる高機能自閉症、アスペルガー障害、広汎性発達障害などは、スキゾイドやスキゾタイパルなど、A群パーソナリティに分類されることが多く、また、二次障害により思い込み(妄想)、こだわり(強迫傾向)、回避傾向を併発することが多いため対人関係療法が困難な場合も多々あるんですよ。
とは言うものの、DSMのI軸診断だけでなく、仕事上の対立や夫婦・パートナー関係、思春期の親子関係など、さまざまな対人問題を抱えている人にも対人関係療法は有力なサポート手段になりますよね。
この場合、重大な精神疾患を伴っているわけではなく、より多くの対人関係と社会支援ネットワーク(リソース)があるので、それらを活用しながら、限定的な対人関係問題の解決のために「対人関係カウンセリング(IPC)」という形で行われます。
対人関係療法に限らず、どの治療法でも良い適応となる患者さんの特徴は、
・治療意欲があること
・洞察力が優れていること
・平均ないしそれ以上の知性
・十分な自我機能
・高レベルの防衛機制
といわれています。
対人関係療法にとっての望ましい特徴には
①喪失・社会的変化・対人関係の対立など、限定された対人的焦点がある
②比較的安定型の愛着スタイル
③まとまりのある体験や具体的やり取りについて述べる能力
④望ましい社会的支援システム
が含まれるといわれています。
とくに対人関係療法は、感情を指標に変化を起こしていく治療ですから、感情の同定(自分の気持ちを把握できる)と伝達能力(コミュニケーション)が重要になってきます。
対人関係療法の適応は、「最適」から「あまり向いていない」までのスペクトラムで理解されていますから、適応にならないというよりも、認知行動療法などの対人関係療法以外の治療法がより向いているという理解になるんですよ。
たとえば、自閉症スペクトラム障害の人に対して、対人関係療法や斎藤環先生曰く『人薬』のように対人関係を利用して対人スキルを高めようとする方向づけは、むしろいつまで経っても馴染めない自分に自信をなくす結果になりかねないので、不適切で、SST(社会技能訓練)やLST(生活技能訓練)のような療育的指導の方が適しているとも言われています。
限定された対人的焦点というのは、発症と維持に対人関係問題が強く関わる疾患(摂食障害(とくに過食症や過食嘔吐)やトラウマ/PTSDなど)や、症状が対人関係に大きな影響をあたえる疾患(うつ病・慢性のうつ病性障害(気分変調性障害など)や双極性障害など)ということですよね。
これらをアセスメントしながら、対人関係療法への適合性、患者の精神状態、愛着スタイル、コミュニケーションパターンなどを評価し、予測される治療における問題を最小限にできるように対人関係療法による治療アプローチのアレンジを行うためなんですよ。
そのため、患者さんが対人関係療法による治療に向いているとのアセスメントが下されるまでは、正式に対人関係療法をはじめるべきではないと言われているんですよ。
次回は、愛着(アタッチメント)スタイルについて書いてみますね。
院長