復職までの支援プラン(職場リワーク)の意義
こころの健康クリニック芝大門のリワークでは、「職場復帰準備性評価スケール(PRRS)」で、フルタイム週5日の勤務が1ヶ月続けられるまでに回復していると判断されれば、復職可能の診断書を提出しています。
ところが、ある患者さんは上司から、「本当に良くなっているのか?、医者は何を根拠に復職可能と判断しているのか?」と言われたそうです。
『医療リワークと慣らし勤務を組み合わせた職場復帰』では詳しくは触れませんでしたが、このように精神科主治医による「復職可能」の診断書をそのまま鵜呑みにする企業は、ずいぶん減ったようです。
医療リワークと慣らし勤務を組み合わせた職場復帰
厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」には、以下の 5つのステップで職場復帰支援をすすめていくよう説明されています。
(見やすいパンフレット版はこちら)
①病気休業開始および休業中のケア
②主治医による復職可能の判断
③職場復帰の可否の判断および職場復帰支援プランの作成
④最終的な職場復帰の決定
⑤職場復帰後のフォローアップ
①病気休業開始および休業中のケア
専属産業医がいる大手の企業はもちろんのこと、精神科医が嘱託産業医を務める会社では、休職中の社員さんと月に1回の面談を行い、本人の復職への意欲、生活リズム、症状を含めた体調の回復についての経過をみていきます。
②主治医による復職可能の判断
しかしながら、いまだに患者さんが復職したいと申し出たら、復職可能の診断書を提出される精神科医が多いので、産業医面談での状態とそぐわない復職可能の診断書は、疑ってかかるのです。
③-1.職場復帰の可否の判断
さて、主治医から復職可能の診断書が提出され、産業医面談で復職可否を判断します。
その際には、2週間ほど「生活記録表」を記録してもらい、朝決まった時間に起きることができているか、通勤訓練を含めて午前中から身体を動かす活動ができているか、業務の準備など集中力を高める行動ができているか、などを確認します。
私自身が産業医として社員さんの復職判定を行う場合には、こころの健康クリニック芝大門のリワークでも用いている「復職準備性評価スケール(PRRS)」を用いて、回復度合を確認します。
リワークのプログラムと復職準備性評価スケール
これが、職務の継続に必要な「疾病性(症状)の消失」と、「事例性(勤怠・安全・パフォーマンス)の回復準備」の確認に相当するのです。
こころの健康クリニック芝大門では、職場復帰支援プログラム(リワーク)を行っています。
その際、「リワークから復職する時は瞬発力が必要だけれども、勤務継続のためには持久力が必要」と説明し、早めに通勤訓練を開始することを勧めていますよね。
また、専属産業医あるいは嘱託精神科産業医は、主治医宛てに職場復帰支援に関する情報提供依頼書を送付し、主治医からの診療情報提供書を依頼することが多いようです。
逆に、私自身が主治医として関わる場合は、リワーク導入時にこれまでの経過とリワーク計画書を産業医に報告し、さらに、月に一度の職場復帰準備性評価スケールの結果について、逐次、産業医に報告しています。
それだけでなく、「発達障害(神経発達症)特性」を有する方であれば復職可能診断書を提出するタイミングで、WAIS-IVの結果から考えられる職務上の問題点や対処法について産業医にお伝えしているので、診療情報提供書を依頼されたことはありません。
復職のプロセスでさらに重要なことは、休職経緯の振り返りです。
こころの健康クリニック芝大門ではリワークの中での課題としていますが、リワークを行っていない医療機関に通院されている社員に対しては、産業医面談の中で、今後、休職した時と同じような状況が起きた時の対処法(コーピング)をまとめてきてもらい、復職可否判断の参考にしています。
③-2.職場復帰支援プランの作成
関係者(人事、上司、産業保健スタッフ)の間で、これまでの休職歴や経過などを共有し、職場復帰プランを作成します。
職場復帰の際は元部署で元の業務に戻ることが原則ですが、「発達障害(神経発達症)特性」を有する方であれば、「仕事内容のミスマッチ(営業・対人サービス、クリエイティブな職務、臨機応変な現場対応)、同僚からの冷遇(無視、陰口、からかい)、上司からの誤解(低評価、批判、叱責)が介在することも多く」、部署異動や業務内容の変更など、再適応に向けた職場の環境調整が必要となる場合もあります。(近藤. 背景に神経発達症があれば,いかなる治療的工夫が必要となるか. 精神科治療学 37(1): 23-28. 2022)
リワークプログラムを経て復職される方も、2週間〜4週間の4〜6時間勤務を「職場リワーク(リハビリ勤務)」として適用する会社も多いようです。
医療リワーク(職場復帰支援プログラム)は休職の契機となった「疾病性(不適応)の改善」が目的ですが、リハビリ勤務(職場リワーク)は「事例性(勤怠・安全・パフォーマンス)の回復=再適応」が目的であり、ゴールが異なるのです。
上記は表向きの理由ですが、実際は、『医療リワークと慣らし勤務を組み合わせた職場復帰』で登場してもらった「職リハ・リワーク」や、ただプログラムを行うだけの「なんちゃって医療リワーク」も増えていることから、冒頭に挙げた例のように、リワークを行っている医療機関から提出された復職可能の診断書であっても、信頼が失墜しつつあるのです。
この段階で問題になるのが、抗うつ薬や抗不安薬の服用を続けられている社員さんです。
精神科主治医は、「復職という変化の時期に抗うつ薬を減薬するのは危険だ」とおっしゃることがほとんどです。
私自身は、抗うつ薬や抗不安薬による認知機能障害によって復職後のプレゼンティーズムが引き起こされる可能性があるため、「変化の時期だからこそ、適応を妨げる抗うつ薬は減薬すべきだ」と考えています。
プレゼンティーイズムとは、「健康の問題を抱えつつも仕事(業務)を行っている状態」であり、厚生労働省保健局の「コラボヘルスガイドライン」によれば、“プレゼンティーイズムによって生産性が低下し、コストが増大する”ことが明らかになっています。
④最終的な職場復帰の決定
6時間勤務を2週間ほど続けた後、関係者と本人を含めた復職面談が設定され、勤怠などに問題がなければ正式に復職可となり、8時間フルタイム残業なしの勤務を約3ヶ月程度続ける事になります。
この間も上司を交えた産業医面談を継続し、パフォーマンスや勤怠・安全を注意深く観察しながら、再発の兆候について面談を続けていきます。
企業によって正式復職後6ヶ月まで面談を続ける産業医もいらっしゃるそうですが、私は、復職3ヶ月以降は、社員さんの面談希望がある時に応じています。
今回のブログは、精神科産業医の視点での説明が多かったのですが、皆さんが通院している精神科主治医やリワーク、あるいは会社の産業医の対応はいかがでしょうか?
院長