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愛着障害の診断基準と発達障害(神経発達症)特性

[2022.06.13]

生きづらさと発達障害(神経発達症)特性』で、『気分のムラと「双極性障害」、集中困難と「うつ病」、アンヘドニアと「気分変調症」、感情調節不全と「不安障害」、変化に対する苦手さと「パニック障害」、こだわりの強さと「強迫性障害」、衝動コントロールの困難さと「神経性過食症」、対人関係の苦手さと「愛着障害」、被いじめ体験と「PTSD」、機能不全家庭環境と「複雑性PTSD」、そしてストレスへの適応不全と「適応障害」など、「発達障害(神経発達症)特性」は様々な疾患にミミックするのです』と書きました。

 

これらの疾患の中で、「発達障害(神経発達症)特性」を有する人たちが訴えられることが多く、思いこみを修正するのが困難な診断名は、アンヘドニアと「気分変調症」、対人関係の苦手さと「愛着障害」、被いじめ体験と「PTSD」、機能不全家庭環境と「複雑性PTSD」です。

 

さて今日は、この中でもっとも誤解が多い「愛着障害」について書いてみます。

 

ICD-11 platform】で「反応性愛着障害」を検索してみると、以下のように記載されています。

 

6B44 反応性愛着障害

説明

反応性愛着障害は、幼児期の著しく異常な愛着行動を特徴とし、著しく不十分な育児の歴史の文脈で発生します。(例えば、重度のネグレクト、虐待、制度上の剥奪)
適切な主養育者が新たに利用可能になった場合でも、子供は快適さ、サポート、育成のために主養育者に頼らず、大人に対して安全を求める行動を示すことはめったになく、快適さが提供されても反応しません。
反応性愛着障害は子供でのみ診断することができ、障害の特徴は生後5年以内に発症します。しかし、選択的愛着の能力が十分に発達していない可能性がある1歳(または9ヶ月未満の発達年齢)の前に障害を診断することはできません。

除外
・アスペルガー症候群(6A02)
・子どもの頃の脱抑制された愛着障害(6B45)

ICD-11 platform

 

「愛着障害」の出来事基準は、「重度のネグレクトや虐待による子どもに必要なケアや子どもの基本的なニーズを満たすことの剥奪」により発症する、とされています。

 

また、「1歳から5歳(幼稚園の頃)までに明確」になり、「重度の社会的剥奪を受けた子どものうち10%程度に認められる(脱抑制性対人交流障害は20%程度)とされています。

 

さらに、「障害の臨床的特徴が5歳以上の子供の間で異なるかどうかは現在不明」と記載されているように、愛着障害は物心がつく前の乳幼児期の重度の虐待やネグレクトによるものに限定されます。

 

児童期、思春期青年期、成人では臨床像が不明なので、乳幼児期に診断されていない限り、小児期以降に愛着障害の診断をすることはまずあり得ないと考えていいでしょう。

それに加えて、「反応性愛着障害は子どものみで診断することができる」と定義されていますから、成人(大人)の愛着障害は存在しないということですよね。

 

さらに、除外診断として「アスペルガー症候群」が挙げられていることから、「自閉スペクトラム症」などの「アスペルガー症候群」と「反応性愛着障害」は似て見える、ということにも注意が必要です。(後述します)

 

ここまでの説明で、巷に流布している「不安定型愛着スタイルと愛着障害は無関係」ことであることが明確に規定されてることがおわかりになるでしょう。

 

「愛着障害」で規定されている虐待は、以下の1つ以上によって特徴づけられる「持続的な虐待」として記載されています。

 

1)身体的危害をもたらす、またはもたらす合理的な可能性がある、または重大な恐怖を引き起こす、偶発的でない物理的力の行為。

2)大人に性的満足を提供することを目的とした子供が関与する性行為。

3)重大な心理的危害をもたらす偶発的でない言葉または象徴的な行為。

ICD-11 platform

 

これも、一般的に使われる虐待という意味と違って、「外傷的エピソード」+「ネグレクトを含む不十分な養育の極端な様式」が「虐待の反復」であり、「反応性愛着障害」の出来事基準、と定義されています。

 

小児期の虐待の基準を挙げてみます。

 

では「児童期虐待」とはどのようなものだろうか。

連邦法によればこのような虐待は「(子どもの)死亡や、深刻な身体的あるいは感情的な被害や、性的虐待または搾取をもたらすような、親もしくは養育者による行為もしくは行為の欠如。あるいはただちに深刻な害を生じる危険のある行為もしくは行為の欠如」だと定義されている

クロアトル, 他.『児童期虐待を生き延びた人々の治療』 星和書店

 

つまり、「反復的な虐待(例、慢性的な身体的または性的虐待)」に関連する反応性愛着障害の子どもは、「心的外傷後ストレス障害(PTSD)」または「複雑性心的外傷後ストレス障害(C-PTSD)」を発症するリスクがあるということです

 

ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如多動症)などの「発達障害(神経発達症)特性」を有する人たちが、自身を「(反応性)愛着障害ではないか?」と感じるのは、以下のような対人関係の障害を自覚するためと考えられます。

 

反応性愛着障害の子どもは、養育者に対して著しく非定型の社会的反応を示し、それは時間の経過とともに持続し、すべての社会的状況に広がり、特定の養育者との二者関係に限定されません。

(中略)

反応性愛着障害の子どもは、青年期および成人期にうつ病性障害およびその他の内面化障害を発症するリスクが高くなります。彼らはまた、健全な対人関係を築き、維持する上で問題を経験するかもしれません。

(中略)

反応性愛着障害の病歴を持つ一部の成人は、対人関係を築くのが困難になる場合があります。

ICD-11 platform

 

DSM-5では「反応性愛着障害」は「自閉スペクトラム症(ASD)の基準を満たさないもの」、また、「脱抑制型対人交流障害」は「注意欠如/多動症(ADHD)」の基準を満たさないもの、と定義されています。

 

では、「反応性愛着障害」と「自閉スペクトラム症」は、どのように鑑別されるのでしょうか?

 

反応性愛着障害のある子どもは、自閉スペクトラム症をもつ人とは対照的に、社会的コミュニケーションと相互の社会的相互作用を開始し、維持する能力を持っています。

反応性愛着障害の子どもたちの中には、社会的怠慢の歴史(ネグレクト)のために言語発達の遅れを示すかもしれませんが、社会的コミュニケーションの欠陥や、自閉スペクトラム症の行動、興味、活動の特徴の持続的な限定、反復、および定型化されたパターン(註:こだわり)を示しません。

制度的環境で深刻な剥奪の条件下で養育された一部の個体は、社会的互恵の困難や、行動、興味、または活動の制限された反復的で柔軟性のないパターンを含む「準自閉症」とも呼ばれる自閉症のような特徴を示します。

ICD-11 platform

 

上記の「制度的環境で深刻な剥奪の条件下での養育」とは、有名なチャウシェスク孤児院などの施設養育体験を指します。

 

反応性愛着障害は、「発達の遅れ(認知および言語の遅れ)「常同症」や、他の重度のネグレクトの兆候(低栄養状態または不十分な養育の兆候)」を示すこともある(DSM-5)とされます。

しかし愛着対象から安全な環境や安心感が提供されると、「社会的コミュニケーションと相互の社会的相互作用を開始し、維持する能力」が伸びてくるということです。

 

一方、自閉スペクトラム症など「発達障害(神経発達症)特性」を有する人は、社会的互恵性の困難や、行動、興味、活動の特徴の持続的な限定や反復、および定型化されたこだわりによって、反応性愛着障害と区別される、ということですよね。

 

つまり、「対人関係が苦手だから愛着障害かもしれない?」と思う人で、反応性愛着障害の出来事基準を満たさない人は、「発達障害(神経発達症)特性」がより疑わしいということですね。

 

今回、ブログで書いたように、こころの健康クリニック芝大門では診断基準にそって診断を行っています。

でも、自分の思い通りの診断にならないと、クチコミに低評価を点けられることが人がいらっしゃることに頭を悩ませています。

 

ご自分で「愛着障害ではないか?」との自己診断(思いこみ)や、前医で「愛着障害と言われた」方は、他の医療機関を受診されることをお勧めします。

「△△という症状があるので治療を受けたい」と症状をきちんと話すことができる人に限定させていただきますので、ご了承くださますようお願いします。

 

院長

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