メニュー

アタッチメントとその障害の臨床像

[2021.10.27]

愛着障害(アタッチメント障害)」の要因は、「身体的虐待や性的虐待といった直接的、侵襲的な出来事ではなく、適切な愛着を形成する「機会」もしくは「場」がないこと」とされてきました。(牧之段, 岸本. 精神科領域の愛着のトピックス. そだちの科学 33, 27-32.日本評論社. 2019)

 

一方、近年のさまざまな研究により、「愛着が子ども側の神経発達障害に代表される感覚過敏や原始反射の残存などによってうまく形成されないことや、子宮内環境不全の影響で胎児期の心的外傷として愛着障害が生じることが指摘」されはじめました。(愛甲. 愛着障害はどうしたら治せるのか?. そだちの科学 33, 77-82.日本評論社. 2019)

 

ヒトの「アタッチメント」はたえず双方向的な関係の中で成立し、その「アタッチメント」が双方向的な関係性を育むという複雑な発達の構造」を基盤に持つということです。(滝川.「アタッチメント」を考える. そだちの科学 33, 2-7.日本評論社. 2019)

 

乳幼児期にはアタッチメントは双生児間で高い相関を示し、その大半は遺伝要因よりも共有環境が寄与していた一方で、思春期では遺伝率が35〜38%と遺伝要因の方が相当な割合で寄与している」こと、つまり、双方向的な関係には養育者および子ども側の双方の神経発達障害が関与していることが明らかとなったのです。(山下. アタッチメントの理論と臨床. そだちの科学 33, 8-13.日本評論社. 2019)

 

発達段階に従って、「愛着障害(アタッチメント障害)」の病像が変化していく例が挙げられていましたので、長くなりますが引用してみますね。

 

乳幼児期の場合

  • 抱っこを嫌がる(母子一体感の獲得不全)
  • 視線が合わない(親と融合した自己の獲得不全)
  • 人見知りがない(安心できる対象が特定できない)
  • 早すぎる自立(安全基地の構築不全)

学童期の場合

  • 母子分離不安:登校渋り。思春期以降、社交不安障害などに移行することが多い。
  • 過度に良い子でいようとする:養育者から見捨てられてしまうのではないかといった不安。
  • 万引きなどの反社会的行為:万引きは「愛情を盗む行為」とも言われており、母親替わりの愛着対象を盗る行為とも言い換えることができる。(中略)愛着対象がしっかりと内在化(身体化)され、己を律することができるようになると反社会的行動は消失する。
  • 自分で選んで決められない(主体性の欠如):たとえ養育者が共感的であったとしても、子どもの側に共感力が育たないと、主体性の育ちは遅れる。
  • 友だちが作れない:愛着形成不全があると、二者関係が構築できていないので、家族関係や友達関係まで関係発達の段階が進んでいないからである。無理やり友だちを作らせようとするよりも、ひとりでいられる力を育てる方が先である。

愛甲. 愛着障害はどうしたら治せるのか?. そだちの科学 33, 77-82.日本評論社. 2019

 

乳幼児期はASD(自閉症スペクトラム障害)や愛着形成の障害の特徴が強くでているようですよね。

 

一方、学童期になるとASDに加えADHD(注意欠如/多動性障害)の要素や、ADHDにともなった「DBDマーチ(反社会性の行進)」として知られる「反抗挑戦性障害」や「行為障害」が見られるようになっていますよね。

 

乳幼児期に限らずさまざまな発達段階における臨床的問題の多くが、不適切養育やアタッチメント関係における心的外傷や喪失体験により、内省機能すなわちメンタライゼーションに機能不全を来たし、社会的交流の場面で“心的等価モード”“ごっこモード”“目的論的モード”が不適切に用いられることによるという仮説に基づき、多様な治療的介入技法の効果を高める共通要素として、メンタライジングを育むアプローチを行うことを推奨している。

山下. アタッチメントの理論と臨床. そだちの科学 33, 8-13.日本評論社. 2019

 

ASD/ADHD様の病像は、「内省機能すなわちメンタライゼーションに機能不全」、つまりセルフモニタリングや自己客観視が困難であることが、非社会的な行動の根底にあることが示されています。

 

では、青年期以降の「愛着の障害(愛着形成不全)」の状態像は、どのような非社会的な行動を呈するのでしょうか。

 

  • DV被害者・加害者:

DV加害者は、パートナーを愛着対象(養育者)と捉えることから、衝動的甘えが出現しやすく、DV被害者も主体性が育っていないことから理不尽な欲求をされてもパートナーから離れることが難しい。
お互い人権を認め合う関係でなく、自分の甘えを満たすための道具となっている。

 

  • ストーカー:

ストーカー加害者は、愛着対象である相手と常に一緒にいたいと望む。相手が自分に好意を持っていようといまいと関係なく、乳児が母親の後追いをするように相手の後を追う。
ストーカー加害者にとって、対象は自己中心的欲求を満たすための道具である。相手が自分の思い通りになっている間はよいが、相手が自分の思い通りにならないと幼児がおもちゃを投げつけるように相手に危害を加える。

 

  • 暴言・暴力:

暴言や暴力は相手の人権をふみにじる行為である。「二歳児は無邪気でかわいらしいが、もし大人が半分も二歳児と同じように、自己中心的であるとするなら、その人は精神病的罪人と考えられるだろう」とオルボートは述べている。
己の暴言や暴力が止められない人は、愛着障害と併せて何かしらのトラウマがあるため、フラッシュバックによる情動的衝動を制御できずにいる。

 

  • リストカットなどの自傷行為:

愛着障害があると、養育者に甘えたいのに甘えられなかった寂しさや怒りがこころの深部に息づいている。空虚感は身体的な痛みによって一瞬忘れることができるが、再び自己を苛むようになる。そのためリストカットは常習化しやすい。
摂食障害は、体重をコントロールするこだわりによって空虚感を一時的に忘れることができる。

 

  • 依存症(嗜癖行動):

アルコール依存、ゲーム依存、買い物依存、携帯依存など、社会生活に支障が出ることはわかっていてもやめられないのが依存症である。
乳幼児が養育者にこだわらないと生きていけないように、愛着対象(アルコール、ゲーム、携帯など)にこだわる症状が依存症とも言えよう。

 

  • ひきこもり:

ひきこもりのきっかけは様々であるが、長期に渡って外界との交流を断ち、家のなかに閉じこもっている状態である。10代の若者から中高年まで年齢幅は広い。
家が母胎と仮定すると、胎児期、あるいは乳幼児期に退行しているような状態とも言えよう。

 

  • 児童虐待(子どもを不適切に濫用する):

加害者の多くは養育者である。養育者に愛着障害があると、無意識に子どもをペット化してかわいがる傾向を持つ。
子どもが親の思い通りになっている間はよいが、親の思い通りにならないと、躾と称してご飯を抜いたり叩いたり、「お前なんか産まなければよかった:などと言ったりして、子どもの心身に重篤なダメージを与える。
子どもに複雑性PTSDが生じることが多いのもそのような理由による。

 

  • 人格障害:

大きくなった幼児、それが人格障害の人たちである。DSM-5では、人格障害を3グループに分けている。
自閉症スペクトラムの成人の多くに人格障害があることが知られているが、神経発達障害の治療と人格障害の治療には多くの共通点がある。

※DSM-5では、10のパーソナリティ障害が、A群(奇妙で風変わりな特徴を主体)、B群(ドラマティック、情動的および不安定な特徴を主体)、およびC群(不安および恐怖な特徴を主体)の三群に大別されている。

愛甲. 愛着障害はどうしたら治せるのか?. そだちの科学 33, 77-82.日本評論社. 2019

 

いかがですか?

 

アタッチメントとその障害により表現されるASD/ADHD様の病像は、「内省機能すなわちメンタライゼーションに機能不全」、つまりセルフモニタリングや自己客観視が困難であることが、上記のようなさまざまな状態を引き起こします。

 

そしてそれは、「愛着の土台がない人の世界は不安に満ちており、人間関係を形成していくうえでの土台がない。そのため母子関係がまだ形成されていない乳幼児の発達段階を生きているということになる」ということです。(愛甲. 愛着障害はどうしたら治せるのか?. そだちの科学 33, 77-82.日本評論社. 2019)

 

院長

▲ ページのトップに戻る

Close

HOME