メニュー

職場の人間関係ストレスの悪循環

[2021.05.28]

入社して2ヵ月近くになるこの時期、少しずつ職場の人間関係模様がみえてきて、上司や先輩がどんな人なのか、ということが分かってくる時期ですね。

 

なんとなく上司の自分に対する風当たりが強いな〜とか、あの先輩は自分が質問に行ってもこっちを見てくれないから聞きづらいな〜とか、周囲から浮いた感じを感じたりします。

あるいは、その部署に長く勤めているベテランのパートさんから無視されたり、陰でこそこそ言われたり。。。

大学時代の同期に連絡を取ってみると、みんな自分と違って充実しているみたいに感じ、気持ちが落ち込み、会社に行くことが辛くなったりします。

 

一方、ハラスメント研修を受けて昇進したばかりの上司(管理職)も、「部下に注意するときにどう話していいかわからない」「注意した部下が不機嫌な顔をすると怖く感じる」、などの悩みを抱えていらっしゃるという話もよく耳にします。

 

このような職場の人間関係も、さまざまなストレス反応を引き起こします。

もっとも影響が出るのが睡眠覚醒リズムで、特に寝付きの悪さとともに、夜中に目が覚めて眠れなくなることが多いようです。

 

職場の人間関係がストレッサー(ストレス因)になっている場合、こころの健康クリニック芝大門のリワークでも説明しているように、交感神経の亢進状態によって生物学的に「闘うか、逃げるか」反応が起きてくるので、眠りというリラックス反応が出にくくなるのです。

 

身体は疲れているので眠いのですが、頭が休まらないのでベッドでスマホを見たり、お酒を飲んだり、起き出してお菓子などの炭水化物を食べたりしてようやく寝付くものの、すぐにまた目が覚めて、翌朝は身体と頭の重さで仕事のことを考えるのが嫌になってしまいます。

逆に仕事中は眠くて仕方がなく、仕事のパフォーマンスが低下してしまいます。

 

さらに、睡眠障害によって脳疲労が蓄積し、心のエネルギー水準が下がってくると、周囲の人たちがますます敵のように思えてしまい、「白黒思考(0か100か思考)」が強くなり、物事を極端に捉えがちになってしまいます。

 

交感神経が興奮しているものの、頭が働かない感じがするので、コーヒーやエナジードリンク、緑茶やウーロン茶などのカフェインの摂取量が増え、ますます身体は重く、夜は寝付けないという悪循環が形成されてしまいます。

 

このような職場の人間関係の悩みと睡眠障害を主訴に、精神科や心療内科あるいはメンタルクリニックを受診すると、判で押したように「適応障害」あるいは「うつ状態」と診断されますよね。

そして、抗うつ薬、睡眠薬、抗不安薬が処方されることは何度も指摘したとおりです。部署異動を会社に申し出られることもあります。または、某有名女優さんのように休養を指示されたりします。

 

ところで、この「適応障害」という診断にはどういう意味があるのでしょうか?

 

適応障害は、本来は長時間労働や過重労働など[ストレス因 > ストレス反応]となっている場合に、環境調整を行って適応に至るまでのストレス反応を耐えられる程度にしていくことが、治療方針となります。

 

ストレス因が本人の心のキャパシティを越えている状態で、睡眠障害やカフェイン摂取、炭水化物飢餓などの要因が加わると、本人のストレス耐性レベルはさらに低下してしまいます。

そうなると、ストレッサー(ストレス因)を過大に評価するようになり(白黒思考にともなうストレス因の主観的増大)、ストレス反応はさらに大きくなり、ストレス耐性レベル(心のキャパシティ)はますます低下してしまうのです。

 

しかし、職場の人間関係のストレスの場合、全例ではありませんが[ストレス因 < ストレス反応]であることが多いのです。

若い人の場合は順応性も高く、ストレス状況に適応することがその後の成長につながるかどうかを考え、ストレス耐性を高めて再適応させるか、環境調整が必要かを考える必要があるのです。

 

ストレス耐性レベル(心のキャパシティ)を高める方法が、こころの健康クリニック芝大門のリワークでも指導しているストレスコーピング(対処スキル)です。

 

共通プログラムと個別プログラムでは若干内容が異なりますが、土台になるのは自分自身の状態を観察するセルフモニタリングです。

 

睡眠覚醒リズム、生活リズムを安定させるために、どのような行動が必要なのか、たとえば、睡眠の問題を悪化させているスマホを見る時間やカフェインの摂取は、どのように調整していけばいいのかを考えていきます。

たとえば、睡眠を改善するためには、夜の入眠時間の調整ではなく、朝の起床時間から順番に光・活動・食事というサーカディアン・リズムとホメオスターシス・リズムの2つの同調因子を調節していく「社会リズム療法」を学びます。

 

セルフモニタリングを通して、自分はどのような思考に突き動かされているのかのメタ認知や、ある感情をネガティブに捉えたときにはその感情とどのように向き合って行けばいいかのアクセプタンス&コミットメントを身につけていきます。

 

そして、職場の人間関係に対しては、自分と他者の心理状態に思いを馳せ、心の状態との観点で行為を理解するメンタライジング・アプローチを援用した対人関係療法を指導しています。

 

メンタライジング・アプローチを援用した対人関係療法では、関係性の文脈で何が起きていたのかをさまざまな視点で振り返り、自他の境界線、人間関係の境界感覚、希望を持ちながら欲求不満を抱えていられるようになる自己調整能力と衝動制御能力とを育んでいくこと、つまりストレス耐性レベル(心のキャパシティ)を高め、事実関係を多角的に検証できるようになります。

 

そうなると、職場の対人関係が問題で「適応障害」になったのだから、何が何でも環境調整という「適応障害」の診断にはほとんど意味がなくなり、環境調整は最後の手段になるのです。

 

院長

▲ ページのトップに戻る

Close

HOME