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複雑性PTSDとメンタライジング能力

[2021.03.24]

不適切な施設養育などによる剥奪的環境に曝露されたための「反応性愛着障害」は、アタッチメント対象をもたないアタッチメント形成の最も重篤な障害と考えられます。

 

しかしながら「反応性愛着障害」は、潜在的に社会的相互関係・反応性に正常の能力があり、言語の遅れはありうるものの、コミュニケーションの質的な偏りは少なく、環境が改善すれば社会性が改善する可能性があるとされています。

 

また「反応性愛着障害」だけでなく、乳幼児期からの虐待やネグレクトなど「持続性の、逃げるのが困難なストレス体験複雑性トラウマ」、あるいは、養育者の感情的引きこもりや役割混乱などの情動コミュニケーションの障害によって乳児の覚醒水準や情動制御がなされないこと(愛着トラウマ)による「複雑性PTSD」、あるいは「発達性トラウマ障害」は、「自閉症スペクトラムなどの発達障害」との鑑別が困難であるとされています。

 

「複雑性PTSD」と併存しやすい、あるいは間違われやすい「自閉症スペクトラムなどの発達障害」の特徴として以下の項目が挙げられています。

 

青年期・成人期のASD(註:自閉症スペクトラム)における事例化についてまとめておく。

  • パニックが基本にある。
  • 孤立の中で自己にめざめ、心細さや居場所のなさ、それまでの自分の否定ないし喪失のなかで、抑うつに傾きやすい。
  • 他者の存在に気づくとともに、それに圧倒され、強い対人緊張や被影響性をこうむる。
  • トラウマや感覚過敏のように、それまでも潜在していたが、自己が形成されるとともに症状化する逆説的な機制がある。

内海『自閉症スペクトラムの精神病理』医学書院

 

「自閉症スペクトラムなどの発達障害」を持つ人は、表情を分析することによって他者のこころを読み取る能力に制約があり、直観的に他者の欲求を考慮することが困難と言われています。

また、自分自身を客観的に外部から見て、自分自身の行動が他者に与える影響を考慮することができないことは、よく知られた事実です。

 

「複雑性PTSD」「愛着トラウマ」と情緒応答性』で、「アダルトチルドレン」「境界性パーソナリティ障害」「複雑性PTSD」、あるいは「摂食障害」「うつ病の一部(註:気分変調症)」「解離性障害」の背景にある「外傷的育ちスペクトラム」の「生きづらさ」が「メンタライジング能力の発達不全」であることに触れました。

 

「メンタライジング能力の発達不全」は以下のような特徴が知られています。

 

このような子どもがメンタライズする能力の未発達を抱えている可能性が高いことを示唆する徴候は、以下のようなときにみられる。

[以下のうちのどれか、または複数]

  • 自分が何を感じているのかがわからず、それを同定することができない。
  • 感情についての知識を用いて自己調節を行うことができない。
  • 自分自身を外側からみることができない(例えば、自分がどのような怒り方をしているか)。
  • 傷つき・悲しみ・恐れ・怒りに対する自分の反応を同定することができない。
  • 自分が人としてどのようであるか(つまり自分のパーソナリティ)を述べることができない。
  • 自分の人生の物語(つまり自伝的物語)を語ることができない。
  • 極端に気まぐれな気質と関連した諸困難を示す。
  • 反芻的に考える(つまり、考えすぎるということに関する問題を抱えている)。

ミッジリー、エンシンク、他『メンタライジングによる子どもと親への支援〜時間制限式MBT-Cのガイド』北大路書房

 

虐待やネグレクトなどの小児期の逆境体験は、「複雑性PTSD」の診断基準にある「自己組織化の障害」、つまり「感情調節障害」「認知障害による否定的自己像」「対人関係の障害」を引き起こします。

 

子供の虐待やネグレクト、それに加えて無慈悲または無常な養育は重要なストレス要因であると考えられており、これらは、自己調節と感情調節の正常な発達を阻害し、中断させるとともに、精神病理を引き起こす潜在的な遺伝的リスクを活性化させうる一般的素因として作用するのである。

ミッジリー、エンシンク、他『メンタライジングによる子どもと親への支援〜時間制限式MBT-Cのガイド』北大路書房

 

怒りや暴力の爆発、危険行為や自傷行為などの「感情調節障害」は、養育者の感情的引きこもりや役割混乱など「情動コミュニケーションの障害」によって引き起こされます。

養育者による、子どもの覚醒水準や情動制御がなされないことで、長期に渡る深刻な影響がもたらされるのです。

 

トラウマ的な出来事に対する、恥、罪責、挫折の感覚を伴い、自分は取るに足らない、価値がないなど持続的な思い込み、つまり「認知障害による否定的自己像」は、持続的な空虚感、無力感や無価値感として自覚されます。

 

さらに「認知障害による否定的自己像」は、人間関係を維持することや人と親密であると感じることの困難である「対人関係の障害」とともに、自分と他者に対する信頼感を阻害し、不信感、孤立、引きこもり、パラノイア、などパーソナリティの変化をもたらし、「感情調節障害」を引き起こすのです。

 

愛着トラウマあるいは裏切りトラウマのような虐待の特定のタイプは、保護と安心の源であるはずの愛着対象から子供が虐待されることであり、信頼を低下させてしまう点でとくにネガティブな結果をもたらすことが知られている。

愛着トラウマを経験し、虐待とネグレクトという状況下で成長する子どもたちは、しばしば自己と他者について考える能力の未発達を顕在化させる。

(中略)

彼/彼女らは、自分が何を感じているのかを知る能力や、この知識を自己調節にどう用いるのかを知る能力が未発達であることが多い。

ミッジリー、エンシンク、他『メンタライジングによる子どもと親への支援〜時間制限式MBT-Cのガイド』北大路書房

 

「複雑性PTSD」と「自閉症スペクトラムなどの発達障害」を持つ人に共通するのは、

①心の中で自己と他者の心理状態についてふり返って考えること

②情動の強度と持続を観察し修正する外的および内的プロセスの困難さ

など、メンタライジングの不在であることから、メンタライジング能力によって情動調整能力を高めていくことが両疾患に対する治療の方向性ということになりますよね。

 

院長

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2021年4月から毎週土曜日に診療を行うこととなりました。診療時間についても、10時~13時半、14時半~16時半と変更になります。
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