発達性トラウマ障害
「発達性トラウマ障害」と、一般向けの書籍で目にする「いわゆる発達性トラウマ」との違いを明確にするために、『身体はトラウマを記憶する』から「発達性トラウマ障害のための、合意に基づいて提案された基準」を抜き書きしてみます。
「発達性トラウマ障害」とは、長期にわたる逆境的小児期体験をしている児童において、以下の4つの症状を認め、その結果、さまざまな領域に障害がもたらされているものと規程されています。
- 感情および身体機能の調節障害
- 注意と行動の調節障害
- 自己および対人関係の調節障害
- トラウマ関連症状の存在
臨床像としては、学童期の注意欠如多動症(ADHD)に似た多動・衝動性と、思春期の自傷行為を伴う解離症状が特徴のようです。
A.曝露:児童または少年が児童期または少年期初期以降、最低一年にわたって、以下のような逆境的出来事を、複数または長期間、経験または目撃した場合。
A1.対人的な暴力の反復的で過酷な出来事の直接の体験または目撃、及び、
A2.主要な養育者の再三の変更、主要な養育者からの再三の分離、あるいは、過酷で執拗な情緒的虐待への曝露の結果としての保護的養育の重大な妨害
B.感情的・生理的調節不全:以下のうち最低二つを含む、覚醒調節に関連した標準的発達能力障害を児童が示す場合。
B1.極端な感情状態(恐れ、怒り、羞恥など)を調節したり、それに耐えたり、それから立ち直ったりする能力の欠如。持続的で極端な癇癪、または身動きが取れない状態を含む
B2.身体的機能の調節の障害(睡眠、摂食、排泄における持続的障害、接触や音に対する過大または過小な反応性、日常生活で一つの活動から別の活動に移るときの混乱など)
B3.感覚と情動と身体的状態の自覚の減少/解離
B4.情動または身体的状態を説明する能力の障害
C.注意と行動の調節不全:以下のうち最低三つを含む、注意の持続または学習またはストレスへの対処に関連した標準的発達能力障害を児童が示す場合。
C1.脅威に心を奪われること、または、安全の手掛かりや危険の手掛かりの解釈を含む、脅威を知覚する能力の障害
C2.極端な危険行為またはスリル追求を含む、自己防衛能力の障害
C3.適応性のない自己慰撫の試み(体を揺り動かすことなどのリズミカルな動き、衝動的自慰など)
C4.(意図的または無意識的で)常習的な、または反応性の、自傷行為
C5.目的志向の行動を開始したり継続したりする能力の欠如
D.自己の調節不全と対人関係の調節不全:以下のうち最低三つを含む、個人的自己同一性感覚と対人関係への不参加における標準的発達能力障害を児童が示す場合。
D1.養育者またはその他の親密な人の安全(時期尚早の養育を含む)について極度に関心を抱くこと、あるいは、別離のあとの彼らとの再会を許容するのが難しいこと
D2.自己嫌悪、無力感、自分は無価値だという感覚、自分は無能だという感覚、自分は不完全であるという感覚を含む、持続的な自己否定感覚
D3.成人や同輩との緊密な人間関係における、極端で持続的な不信、反抗、互恵的行動の欠如
D4.同輩または養育者またはその他の成人に対する、反応性の身体的攻撃または言葉による攻撃
D5.親密な接触(性的または身体的親密さを含むがそれに限らない)を得るための不適切な(過剰または不品行な)試み、あるいは安心と安全材料を確保するための、同輩または成人への過剰な依存
D6.他者による苦悩の表現への共感または寛容性の欠如、あるいは他者の苦悩に対する過剰な反応性によって裏付けられる、共感的覚醒調節能力の障害
E.心的外傷後スペクトラム症状:三つのPTSD症状クラスターB、CおよびDの少なくとも二つで最低一つの症状を児童が示す場合。
F.障害:(発達性トラウマ障害基準B、C、D、およびEの症状の)持続期間が最低でも六ヵ月。
G.機能障害:この障害は、以下の機能領域のうち最低二つで臨床的に重大な困難または障害を彦起こす。
・学業
・家庭
・同輩集団
・法律
・健康
・職業(雇用またはボランティア作業または職業訓練に参加している、あるいはそれを求めている、あるいはそのために紹介されている若者にとって)ベッセル・ヴァン・デア・コーク『身体はトラウマを記憶する』紀伊國屋書店