「感情のコントロールができません」
摂食障害の患者さんを含め、それ以外の患者さんからも「感情のコントロールができない」、「感情のコントロールができるようになりたい」というお話をよく伺います。
では、多くの患者さんがなぜ、感情をコントロールしたい(しなければならない)と感じるのでしょうか。
アニータさんはこんな風に述べていますよね。
自分の抱く感情、特に負の感情と呼ばれるものに恐れを感じている人はたくさんいます。
そしてそんな人たちは、痛みを感じてしまったら対処しきれずに打ちのめされてしまうのではないか、一度でも孤独を感じてしまうと永遠にそれが続くのではないか、怒りをじかに体験してしまうと物や人を傷つけ破壊してしまうのではないか、などと恐れながら暮らしています。
その結果、恐怖は悲しみ、怒りや孤独感といった「悪い」感情を無視するか、必死にコントロールすることで、それらをなるべく感じないようにしてしまいます。
乱れた食行動で苦しむ女性たちは、誰よりも自分の抱く感情を恐れています。
アニータ・ジョンストン著 「摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語」より
乱れた食行動に苦しむ女性たちの多くが、感情の中でも恐怖や悲しみ、怒りや孤独感という「悪い」感情に対する恐れから、そういった感情を無視したりコントロールしたりしてできるだけ感じないようにしている。そのための行動の一つが食行動であると説明しているのです。
その上でアニータさんはこんな風に語りかけていますよね。
どんどんと溜まっていく感情と共に生きていると、心が感じるプレッシャーも溜まり続けます。
体の凝りや緊張状態、過敏状態、胃痛や頭痛などはすべて、何年もの間感情を押し込めていることからも起こります。
あなたは、このプレッシャーにどう対処したらよいと学びましたか?
とても忙しくしたり、カロリーを計算したり、体重を測ったり、ダイエットをしたり、無茶食いをしたりと、気をすらすことで対処していませんか?
運動したり、過食嘔吐したりして、ずっと感じている緊張状態をほぐそうとしていませんか?
みなさんはどうでしょうか。
アニータさんは、過食や嘔吐、無茶食いや拒食、食べ物や痩せることへの執着を引き起こしているのは感情そのものではなく、私たちが感情を感じないようにしていることが原因だとおっしゃっています。
そして、コントロールを失ってしまうのではないかといつも心配しながら感情を押し殺して生きなくてもいいんだよと、優しく語っていらっしゃいます。
行動と違って、感情はあなたや他の人を傷つけません。抱いていることが不快だったり、居心地の悪いものだったり、(正しく表現されないと)暴力的な行動の機動力になったりすることはありますが、感情自体は悪いものでも、破壊的なものでもありません。
しかし、きちんと認識されなかったり受け入れられなかったりすると、トラブルを起こすことがあります。(中略)無視したり押し殺したりすると、ますます力を増し、ねじれて間違った方向に表現されてしまうのです。
もしかすると感情をコントロールできるようになりたいと感じている方は、アニータさんのおっしゃるように、感情を無視したり押し殺したりすることでむしろ状況を悪化させてしまったのかもしれません。
私自身も治療を受ける以前は怒りのマグマを常に抱えていて、それが些細なことで噴火し、さらに一度噴火するとなかなかその怒りを静められないという状態でした。
当時の私は怒りという感情を感じることも認めることもできずにいて、それがさらに怒りを増幅することにつながっていたのだと思います。
感情との付き合い方について、アニータさんはこのように述べていますよね。
感情に逆らったり無理に離れたりしようとせず、きちんと感じて経験できると、全く違うことが起こります。しっかりと向き合えば、奇跡のような素晴らしい経験ができ、感情は徐々に勢いを失います。
(中略)
同じ感情が二度と戻ってこないというわけではありませんが、ブロックするのではなく、感情という波の乗り方を一度覚えれば、波が過ぎ去るのがどんどん速くなり、より少ない努力と苦しみで乗り切れるようになります。
感情をブロックしたり無視したりするのではなく、感情という波に乗ることが大切だとおっしゃっています。感情をコントロールするのとは少し違うようですよね。
感情を邪魔者として敵視することをやめると、新しい関係を築くことができます。感情と友達になれれば、人生という旅の味方、案内人となってくれるのです。
そして、その感情という人生の案内人は、自分がどういう人間なのか、本当に欲しいものは何なのかを理解させてくれ、人生の深みへと連れて行ってくれるはずです。
感情は決して敵ではなく、自分の人生の案内人であるというアニータさんの言葉に、私は当時も今も深く共感しています。あなたの感情はあなたをどんなところに連れて行ってくれるでしょうか。