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対人関係療法による摂食障害の治療〜神経性食欲不振症(拒食症)1

[2012.06.11]

ノースカロライナ大学のブリンク教授らが、神経性食欲不振症(拒食症)に対しては、専門家が行う、体重維持や食事パターンなどの臨床的な身体管理、心理教育、ケアやサポートなどと支持的精神療法を組み合わせた「非特異的な支持的臨床管理」が「対人関係療法」や「認知行動療法」よりも優れていたという論文を発表しています。
(American Journal of Psychiatry(2005; 162: 741-747))

ブリンク教授らの研究は、17歳から40歳までの拒食症の女性56人を、対人関係療法、認知行動療法、あるいは非特異的な支持的臨床管理の3つのグループに分け、20週以上の治療が行われました。

この研究での除外基準は、

・BMI:14.5以下(標準体重の65%以下:厳重な栄養管理が必要)
・慢性・難治性の拒食症
・現在の深刻なうつ病
・精神物質(薬物やその他)依存症
・主要な医学的・神経学的疾患
・発達にともなう学習障害
・認知障害
・双極I型障害
・統合失調症

とされました。

56人のうち、35人は20回のセッションの少なくとも15回に参加し、治療を完了したとみなされています。
治療が完結しなかった21人が参加できたセッションは平均7回で、これらの参加者のうち4人体重減少や合併症のため入院し、一人が死亡しています。
治療中断の理由は、3つの治療グループ間で差は認められませんでした。

 

拒食症患者は対人関係に困難を感じていることが多いため、対人関係療法のほうが認知行動療法よりも有効ではないか」という当初の予測をくつがえし、結果は非特異的な支持的臨床管理が最も良く、ついで認知行動療法、対人関係療法の順だったのです。汗

 

この3つの治療法の中で対人関係療法の有効性が認められなかった理由について、

・対人関係療法で治療焦点とする問題領域を決定するまでの期間が短かった
・治療中期が十分に取れなかった
・対人関係問題と拒食症の症状の関連が十分に調査できなかった

などの理由で、拒食症の症状が対人関係に反応しなかったと考察されています。

 

対人関係イベントは、拒食症の患者さんに回避されていた可能性がありますし、対人関係療法による治療は、気持ちと人間関係機能に焦点があてられていたため、拒食症の患者さんにとっては難しかったのかもしれないと、ブリンク教授らはまとめています。

 

拒食症(制限型/むちゃ食い・排出型)では、10〜20%に広汎性発達障害が認められ、約6%にアスペルガー障害が認められるという報告もあります。

もしかすると拒食症に見られる食事や体重へのこだわりは、興味・関心の幅が狭く、一つのことに没頭し固執するという発達障害の要素を反映しているもので、こだわりや強迫傾向にはエビデンスがない対人関係療法はこの研究で効果が実証できなかった可能性がありますよね。

ブリンク教授らは拒食症の治療に対しては、基本的には常に栄養状態の安定と適切な体重増を主眼とすべきだが、その後の治療セッションは、その週の患者の状態や態度により決定すべきであると述べています。

具体的で明確な指示を繰り返し与え続ける非特異的な支持的臨床管理のような療育的な対応が、効果に結びついたのかもしれませんね。

 

日本摂食障害学会監修の『摂食障害治療ガイドライン』の中で、水島広子先生は、拒食症の対人関係療法について、

拒食症の発症プロセスは「役割の変化」としてフォーミュレーションできる場合が多く、たとえば思春期発症の最も典型的な例は、それまでの「自分一人で努力すればなんとかなる」というルールが通用しなくなる場面で、安心を求めて低体重にしがみつくという症例が一般的です。

また、発症後には、治療によるトラウマもみられるほど、さらなる「役割の変化」に曝されます。それがさらに病理を悪循環に陥らせる例はとても多いものです。

このような不安の結果としての症状の性質を考えれば、症状そのものをコントロールするのではなく、安心を提供し、「役割の変化」を乗りこえ、新たな役割におけるスキルを養うことが本質的な解決になる、という考え方で治療を進めていくことができます。

なお、拒食症の中でも「過食の要素」に対しては、過食と対人関係の関連づけをしながら、過食症同様に治療を進めていくことができます。

と述べておられます。

入院治療を含む身体治療を検討する目安としては、

①極端なるいそう(やせのこと):以下のいずれか
・BMIが14kg/m3以下
・標準体重の65%以下(例えば160cmで36kg以下)
・身長にかかわらず体重が30kg以下
②最近の低血糖発作
③歩行障害
④重度の低血圧・徐脈
収縮期血圧が80mmHg以下、脈拍が50/分以下

となっています。

とくに標準体重の75%以下になると入院治療が必要な身体合併症の頻度が高まると言われていますから、三田こころの健康クリニックでは治療導入の目安として標準体重の70%(ー30%)を精神療法に取り組める限界と考えています。

 

最低体重の維持などの身体管理ができていて、思い込みやこだわりなどの強迫的な要素や回避傾向が少なければ、

・治療焦点とする問題領域を決定するまでの期間(初期)を十分取る
・治療中期を十分にとる
・対人関係問題と拒食症の症状の関連を十分に調査する

などの拒食症バージョンの修正を行いながら対人関係療法による治療を考慮してみるのも一つの方法かもしれませんよね。

院長

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