うつ病
うつ病とは?
「たくさん寝たのに疲れがとれない」「何をしても楽しめない」といった症状に悩んでいませんか?
こういった症状があらわれ、日常生活に支障をきたしている場合はうつ病の可能性があります。
うつ病とは「脳のエネルギーが病的に低下した状態」のことです。[1]
抑うつ気分や意欲の低下(食欲、睡眠欲、性欲など)といった精神的症状と、不眠や身体のだるさなどの身体的症状があらわれます。
うつ病は気分障害のひとつであり、大きく分けると下記の3つに分類されます。
① 大うつ病性障害
大うつ病性障害とは、ストレスから脳の機能障害が起こり、心身のエネルギーが低下する病気です。いわゆる、うつ病のことです。
気分の落ち込みや意欲低下などの精神症状のほかに、眠れない、食欲がわかないなどの身体症状が2週間以上続きます。[2]
② 双極性障害(躁うつ病)
双極性障害とは、うつ状態と躁(そう)状態をくりかえす病気です。[3]
うつ状態と躁状態は両極端な状態です。具体的には、気分の高揚が見られる一方で、ひどく落ち込んだりします。
うつ病と誤診される場合も多く「うつ病と診断され治療を開始したものの、5年経って双極性障害といわれた」といったケースもあります。
③ 持続性気分障害(気分変調症)
持続性気分障害とは、気分変調症や持続性うつ病と呼ばれる気持ちの落ち込みや意欲の低下が、慢性的に続く病気です。
病気を自覚することが難しいため、自身の性格の問題と考える方も珍しくありません。
うつ病の特徴的な病型による分類では「メランコリー型」「非定型」「季節型」「産後」などにわけられます。[1]
一般的にうつ病というと大うつ病性障害(定型うつ病)を指すことが多いため、本記事では、大うつ病性障害のことを「うつ病」と表記して解説します。
うつ病の症状
友達とケンカしたり、恋人と別れたり、仕事でうまくいかなかったりなど、ショックなことがあり、つらく悲しい気持ちになった経験は誰もがあるのではないでしょうか。
通常は、数日も経つと少しずつ気持ちを取り戻し前向きになるもの。
ただし、うつ病の場合はそのつらく悲しい気持ちだけではなく、からだの不調が2週間以上続くのです。うつ病の症状は、主に精神症状と身体症状にわけられます。
精神症状(こころの不調)
- 気分の落ち込み
- 何をしても楽しめない
- 自分を責めてばかり
- 涙もろい
- 怒りっぽい
- 集中力がない
- 動きが遅い
- 「死にたい」「消えたい」と考える
身体症状(からだの不調)
- 眠れない
- 寝つきが悪い
- 寝すぎる
- 食欲がない
- 疲れやすい
- 吐き気や下痢が続く
- 体重が減少する
- 性欲がなくなる
こういった症状が2週間以上続く場合は、うつ病の可能性があります。精神科や心療内科を受診しましょう。
ただし、症状があらわれたからといって、必ずしもうつ病と診断されるとは限りません。診断については後述しますが、ご本人のもともとの性格や行動から現在の様子を考えることが大切です。
たとえば、穏やかな人が怒りっぽくなったり、いつも明るい人が暗くなったりする場合などです。
周囲の人がうつ病と気づくためには、変化に注意することが大切といえるでしょう。
重症度
うつ病は、ご本人が自覚しにくく、重症度もさまざまです。重症度は以下のようにわけられます。[1]
重症度 | 概要 |
---|---|
軽症 | 仕事や日常生活、コミュニケーションに起こる障害を自覚しているものの、周囲の人はその変化に気づかないことが多い。 |
中等度 | 軽症と重症の間に位置しているレベルの症状があらわれる。 |
重症 | 仕事や日常生活だけではなく、コミュニケーションが明らかに難しくなる。 |
「昔と比べ表情が暗くなった」「いつも悲しそうな顔をするようになった」「お酒の量が明らかに増えた」などの変化を感じる方が身近にいる場合は、精神科や心療内科などへの受診を促しましょう。
うつ病の原因
うつ病を発症する原因は、現時点では解明されていません。[2]
感情や意欲をコントロールする脳の働きに、何らかの不調が生じているのではないかと考えられています。
この不調を引き起こす理由は、主に「外因性あるいは身体因性」「内因性」「心因性あるいは性格環境因性」にわけられます。[5]
① 外因性あるいは身体因性
外からの影響が原因のうつ病は、外因性(身体因性)うつ病と呼ばれます。
- 脳の病気(アルツハイマー型認知症など)
- からだの病気(甲状腺機能低下症など)
- 薬剤(副腎皮質ステロイドなど)
このように病気や薬などが原因となり、うつ病を発症する恐れがあります。[5]
② 内因性
内因性うつ病は、典型的なうつ病です。
何らかのうつ病になる内因のあるうつ病で、うつ病になりやすい思考パターンや脆弱性があります。
脳内の神経伝達物質(セロトニンやノルアドレナリン)の働きが悪くなっていることが、内因性うつ病を発症する要因のひとつです。[5]
③ 心因性または性格環境因性
性格や環境がうつ病の発症に関係しており、抑うつ神経症(神経症性抑うつ)と呼ばれています。
うつ病の発症が環境の影響が強い場合は、反応性うつ病といわれることもあります。
うつ病の診断
うつ病を診断する目安として「精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM-5)」と「疾病及び関連保健問題の国際統計分類第10版(ICD-10)」の2つが用いられています。
ここでは、DSM-5の診断基準を紹介します。
以下の9つの症状のうち 5つ以上が2週間の間に存在し、病気を発症する前から変化がある際にうつ病と診断されます。
1 | ほとんど毎日、一日ずっと抑うつ気分がある |
2 | ほとんど毎日、一日ずっと活動への興味や喜びを感じない |
3 | 激しい体重の増減(例えば1か月で体重の5%以上の変化)、もしくはほとんど毎日食欲の減退または増加がある |
4 | ほとんど毎日、眠れないまたは、寝すぎている |
5 | ほとんど毎日、落ち着きのなさ、怒りっぽさ、動作の鈍さがみられる |
6 | ほとんど毎日、疲れているもしくは、意欲がわかない |
7 | ほとんど毎日、自分には価値がないと思ったり、自分をとがめたりする |
8 | ほとんど毎日、思考力や集中力が低下したり、決断ができなかったりする |
9 | 死にたいと思ったり、計画したりする。自分を傷つける |
参照元:セルフメンタルヘルス|厚生労働省
うつ病の治療法
うつ病の治療法は、主に薬物療法と精神療法です。[2]
ただし、うつ病の治療を開始する前に「心身の休養が取れる環境を整えること」が重要です。
具体的には、ストレスの要因となる学校や職場から離れたり、人間関係を見直したり、診断書をもらって仕事を休んだりします。実際の治療法を詳しくみていきましょう。
薬物療法
薬物療法で主に使われるのは「抗うつ薬」です。
心身の安定を目指す治療法であり、患者さんの症状に合わせて主治医が薬を選びます。
抗うつ剤の副作用は年々少なくなっています。ただし、薬の飲み始めは、以下のような副作用があらわれる恐れがあります。
- 下痢、便秘
- 吐き気や胃の痛み
- 体重の増加
- 眠れない、もしくは眠気の増強
- 喉の乾き
- めまい、ふらつき
薬の効果があらわれるのに時間を要するにもかかわらず、副作用は飲み始めからあらわれる可能性があるため「薬は効かないけど、副作用が出る」「やっぱりうつ病は治らないの?」といった不安を感じることがあるでしょう。[6]
ただし、自己中断したり、一度に薬を多く飲まないように注意してください。
薬の効果にも個人差があるため、ご自身のからだとこころと向き合いながら、主治医の指示で治療を続けることが大切です。
精神療法
精神療法では、医師や臨床心理士などの専門家と会話を重ねながら、心配なことや困っていること、不安なことなどの解決を目指します。
ですが、症状が重いときは、精神療法で苦痛を感じる恐れがあります。そのようなときは無理する必要はありません。
そのため、まずは心身の休息と薬物療法などで症状を安定させたうえで、再発予防として精神療法に取り組むのが一般的です。
うつ病になりやすい人
日本では、100人に約6人がうつ病にかかると言われており、珍しい病気ではありません。[2]
「自分が弱いから病気になった」と自分を責める方もいますが、決してご本人の弱さが原因ではありません。
ストレスが脳の機能障害を引き起こすきっかけとなるため「ストレスに耐える人」は、自分を追い込みやすく、うつ病になりやすいと言えるでしょう。ほかにも、うつ病を発症しやすいといわれる要因がいくつかあります。[7]
- 遺伝
- 気質
- 喪失体験(つらい出来事)
- 女性であること(ホルモンバランスの変化)
- 特定の疾患
- 特定の薬の副作用
うつ病の治療をお考えの方へ
うつ病に悩む方は少なくありません。
うつ病を発症すると意欲の低下や気分の落ち込みといった精神的な症状、眠れない疲れやすいなどの身体的な症状があらわれます。
こういった症状があり不安を感じている方は、すぐに医療機関を受診し早く治療を始めましょう。
当院では、こころの病の臨床経験が豊富な精神科医が診察します。近年、うつ病の新しい治療法として注目を集めている「TMS治療」も受けることができます。
TMS治療とは、薬を使わず専用の機器で脳を刺激する治療法です。薬を服用しなくていいため副作用が少なく「薬の副作用がつらくて治療を続けられない」「運転するから薬を飲みたくない」と感じている方にも選ばれています。
なにかお困りごとがある方は、些細なことでも遠慮なく当院にご相談ください。
執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了