社交不安障害
社交不安障害とは?
社交不安障害とは「ほかの人とかかわる中で、過度の緊張や不安を感じ日常生活に支障をきたす病気のこと」です。
ある研究では7人に1人くらいの割合で発症する病気であり、これまでは「対人恐怖症」と呼ばれていました。
こちらの言葉だとイメージしやすいのではないでしょうか。誰しも、ピアノの発表会前に不安を感じたり、会議でプレゼンテーションをするときにドキドキしたりすることもあるでしょう。
ただし、社交不安障害の方は、周囲の人々の注目や評価に過度に敏感になります。その結果、日常生活や社会生活が困難になるのです。
この状況には多くの人が直面していますが「性格の問題だから仕方ない」と思われ、受診から遠ざかってしまうケースも多いです。
社交不安障害の主な症状
社交不安障害の主な症状は、社交場面で「うまく話せないかもしれない」「自分の振る舞いが人を不快にしないか」などという恐れにより強い不安や恐怖を感じることです。なかには半年以上、症状が続くことがあります。
このような状況では、ほかの人とかかわる場面を避けたり、引きこもる場合もあるかもしれません。
ここでは、社交不安障害の症状を身体症状と精神症状の2つにわけて解説します。
(1)身体症状
身体症状とは、不安や緊張を感じてからだの不調が出ることです。
- 人前で冷や汗が出る
- 動悸が激しくなる
- 緊張で手が震える
- 息苦しさを感じる
人と接する場所や人混み(電車やバス、繁華街など)で注目されたり、恥ずかしい思いをしたりするのではないかと感じると身体症状として現れます。
(2)精神症状
精神症状とは、社交場面で自分の振る舞いが否定的な評価を受けるのではないかという強い不安や恐怖によって精神の不調が出ることです。
- 人前で話したり、発表したりなどの場面での強い緊張感
- 初対面の人に会ったり、雑談したりなどでの強い緊張感
- 恥ずかしい思いをするかもしれないという不安
- 苦手意識があり人前を避けること
いわゆる「あがり症」とは異なり、日常生活や社会生活に支障をきたすことが特徴のひとつです。
社交不安障害は単なる「性格」とは違う
朝礼やプレゼンなど大勢の人前で発表する時に緊張するのはごく普通のことです。
ですが社交不安障害では、友人や知人との関係においても支障をきたします。
人から何かを頼まれても断れなかったり、人に自分の意見を言えなかったりすることで、ストレスを抱える恐れがあります。
職場の同僚や学校の同級生などある程度、関係性のある相手に対して自分の思いを伝えられずに、社会生活に難しさを抱えてしまうのが社交不安障害なのです。
社交不安障害の原因
社交不安障害の原因は、現在も十分に解明されていません。
遺伝的な要素や環境的な要素により脳の異常を引き起こしている可能性があるといわれてます。
幼少期の環境
子どもの頃の家庭環境もその一因です。子どもは大人の振る舞いを見て学ぶため、それが社交不安障害に関連している恐れがあるのです。
また、幼少期に自己肯定感を育てることができず困難に直面したときに「回避」を選択するような状況では、社交不安障害が発症しやすいといわれています。
過去の失敗体験
さらに、過去の失敗体験も社交不安障害の原因となる可能性があります。
人前での失敗や恥ずかしい経験がトラウマとなり、強い恐怖心を引き起こすためです。知人や友人、第三者の失敗を目の当たりにすることでも恐怖を感じ、日常生活に影響する場合もあります。
社会的な役割の変化
転職や昇進、結婚など役割の変化により新たなストレスや不安を感じることもあります。
一見するとうれしい出来事にもかかわらず、社交不安障害の方は症状があらわれやすいのです。
社交不安障害の診断
社交不安障害を診断するためには「これまでの生活で人とのかかわりで不安や恐怖などを感じたことがあるか」について詳しく話を聞くことが欠かせません。
以下のすべてに当てはまる場合に診断されます。
- 症状が強く、6カ月以上続いている
- 1つまたは、複数の社会的状況に関係している
- 症状がほぼ同じ状況で生じる
- ほかの人による否定的な評価への恐怖がある
- 症状があらわれやすい状況を避けたり、居心地の悪さを感じながら耐えたりする
- 実際の危険と釣り合わない
- 重大な苦痛を引き起こしている、もしくは日常生活や社会生活に大きな支障をきたしている
出典元:社交不安障害(社交不安症)の 認知行動療法マニュアル|厚生労働省
動機や冷や汗などの症状は、ほかにからだの病気が隠れている可能性があるため、血液検査や頭部CT・MRI、脳波検査などを実施する場合もあります。
心理テストをおこない、性格的な傾向を把握したり、苦手なことを役立てたりもします。
社交不安障害の治療法
社交不安障害の治療法は、主に2つにわけられます。
- 薬物療法
- 精神療法(認知行動療法)
発症年齢が13歳と若く、不安や恐怖などを自分の性格と捉えてしまい、未治療であるケースが多いです。
ただし、自然に症状が改善することはまれであり、長引く恐れがあります。
そのため、精神科や心療内科を受診し、早くから治療を始めることが大切です。それぞれの治療を詳しくみていきましょう。
(1)薬物療法
薬物療法では主に抗うつ薬(SSRI)や抗不安薬(ベンゾジアゼピン系薬剤)を使用します。
特定の場面で不安が現れる場合は、その場を乗り切るために薬を使うことも有効です。
ただし、症状が良くなって自己中断したり、飲む量を減らしたりすると、症状が悪化する恐れがあるため注意してください。
不安な状況が多く普段の生活が安定しない場合は、主治医に相談して「(2)精神療法」との組み合わせ」を考えましょう。
(2)精神療法
精神療法では主に行動認知療法がおこなわれます。
本人の症状に合わせて短期・中期・長期的な目標を設定しセッションを進めます。より現実的で具体的な目標となるように適宜評価しながら実施します。
また、精神療法を単独でせず症状を安定させるために薬を使いながら実施します。
社交不安障害の治療をお考えの方へ
社交不安障害は、精神障害の一つであり、自分では気づきにくい病気です。
この病気と向き合いながら薬物療法と精神療法を組み合わせて、焦らずに治療を続けることが重要です。また、家族や身近な人の理解やサポートも欠かせません。
こころみクリニックでは、こころの病気の治療をしている医師が多く在籍しています。日常生活や社会生活に支障をきたしており不安を感じている方は、早めに相談にいらしてください。
執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了