パニック障害
パニック障害とは?
パニック障害とは、動悸や息切れとともに、激しい不安や恐怖を繰り返す病気です。
「このまま死んでしまうかもしれない」と感じる恐怖が、突然襲ってくるのです。症状が重くなると、過呼吸になり倒れてしまうこともあります。
この「パニック」は、誰しも感じる緊張や恐怖とは比べられません。
ただし、パニック障害は一生のうちで全人口の2~3%がかかるため、珍しい病気ではないのです。
さらに、男性よりも女性のほうが2倍かかりやすく、再発率も高いとされています。
パニック障害が、普段の生活に大きく影響する病気であることは、想像しやすいのではないでしょうか。
パニック障害の主な3つの症状
パニック障害の主な症状は「パニック発作」「予期不安」「広場恐怖」の3つです。それぞれの症状をみていきましょう。
パニック発作
パニック障害の主な症状は、なんの前触れもなく繰り返し起こる「パニック発作」です。
ときには、睡眠中に突発的な不安に襲われる場合もあります。
パニック発作を大きく分けると、以下の2つに分類されます。
(1)認知的症状
認知的症状とは、物事の捉え方に対して「認知のゆがみ」が出ることです。
- 「気が狂ってしまう」「自分をコントロールできない」などの恐怖
- 「心臓の発作が起こっているのではないか」「自分はこのまま死んでしまうのではないか」などの恐怖
物事の捉え方にゆがみを生じると、恐怖や不安が強まります。
その恐怖や不安が自律神経の緊張を高めることで、からだに症状があらわれやすくなるのです。
(2)身体症状
パニック発作のあらわれ方は人によってさまざまです。たとえば、以下の症状があげられます。
- 動悸、息切れ
- 大量の汗をかく
- 手足のふるえ
- 喉の異物感
- 胸の痛み
- 吐き気
- 下痢
- めまい、ふらつき
- 寒気、体のほてり
- 現実感の消失、離人感(自分が自分でない感覚)
パニック障害の診断基準は、パニック発作を2回以上繰り返すことです。
ただし、重症な病気が隠れており、パニック発作と同じような症状が起こることもあります。
そのため、からだの病気がないこと、ほかにもアルコールやお薬の影響がないことを確認することが、パニック障害と診断するときの条件のひとつです。
予期不安
パニック発作を起こすと「また発作が起こるのではないか」と不安や心配な気持ちになります。
その気持ちが続くことを予期不安といいます。
結果として、無理しないように苦手な状況を避けます。
さらに、苦手意識が強くなり、パニック発作を起こしやすくなるのです。
広場恐怖症
広場恐怖症とは「逃げられない環境」「自分でコントロールできない状況」と感じたときに、強い不安や緊張を感じる恐怖症です。
広場恐怖症が出てくる例としては、
- 自由に乗り降りができない公共の交通機関(電車やバスなど)
- エレベーターや映画館などの密室空間
- 人混みや行列
などがあります。
パニック発作が出てきたときの環境や状況は、恐怖とともに記憶に残りやすいです。
さらに、パニック発作は、似たシーンで症状があらわれるため、そのシーンを避けて行動する傾向が強くなります。
そのため、日常生活や仕事に支障をきたすことが少なくありません。
パニック障害の原因
パニック障害の原因は、現在の医療では脳の機能的な異常があると考えられています。
その理由は、
- 抗うつ剤(脳の神経伝達物質にアプローチする)が、パニック障害の治療でも効果が期待できる
- 乳酸ナトリウムを注射することで、人工的にパニック発作を起こせる
などが考えられます。
パニック障害は遺伝する?
「親がパニック障害の場合は、子どもにも遺伝する」ことは明らかとなっていません。
というのも、パニック障害の原因は、研究途中であるためです。
ただし、パニック障害は「遺伝要因」と「環境要因」が重なり発症する、かつ環境要因の影響のほうが大きいと考えられています。
環境要因に多いものとして、以下を例にあげます。
- パニック障害の方の性格
- 日常生活で感じるストレス
- 過去のトラウマ(心的外傷)
さまざまな遺伝的、環境的な要素がパニック障害の発症にかかわるとされています。
パニック障害の治療法
パニック障害の治療法は、主に2つにわけられます。
(1)パニック発作を安定させる治療
まずは、日常生活で起こるパニック発作を落ち着かせることから始めます。
当院では、主に抗うつ剤を使います。抗うつ剤でセロトニンの働きを強めて、脳のバランスを整えることで、パニック障害の症状を軽くすることを目指します。
抗うつ剤の治療をはじめると、症状がすぐに落ち着く方も多いです。
ただし、抗うつ剤はパニック障害の根本的な治療ではありません。
一時的にパニック発作を抑えて、少しずつ心身を回復させることが抗うつ剤を使う目的です。
すぐにお薬をやめると、パニック発作が再度あらわれる恐れがあります。
そのため、少なくとも、1年間はお薬を続けることが望ましいでしょう。
患者さんのなかには「お薬を使わずに治療したい」と希望する方もいますが、ほかの不安にかかわる病気と比べると、パニック障害は薬の効果が期待できます。
「副作用でお薬が続けられない」「お薬の効果が十分であるか不安」などの困りごとがある方は、遠慮なく当院にご相談ください。
ただし、うつ症状を伴うパニック障害の場合は、お薬を使わない「TMS(磁器刺激)治療」を検討するのもいいでしょう。
うつ病について詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。
(2)広場恐怖症を克服する治療
広場恐怖症を克服すると、パニック発作があらわれる可能性を減らせるかもしれません。
パニック障害は、広場恐怖症があらわれやすいためです。
広場恐怖症を治療する一般的な流れは、以下のとおりです。
- お薬を使って、パニック発作を落ち着かせる
- 精神療法(主に認知行動療法)で「コントロールできない状況」への苦手意識を和らげる
広場恐怖症の治療には、お薬の治療に加え、認知行動療法で成功体験を積みあげていくことが大切です。
この積み上げが、再発予防にもつながります。
パニック障害の治療をお考えの方へ
本記事では、パニック障害の症状や治療法について解説しました。
パニック障害は、ほかの精神疾患と比較すると、症状が改善しやすい病気といえるかもしれません。
ただし、再発率は高く、特に女性は再発しやすいと考えられています。
お薬の治療と精神療法を併用しながら、焦らずに治療を継続することが大切です。
「心身の不調で、日常生活を送るのが難しい」と感じている方は、ぜひお早めにご相談ください。
執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了