双極性障害
双極性障害とは
双極性障害とは、「躁(そう)状態」「うつ状態」の2つの気分が行ったり来たりする病気です。
躁状態 | 気分が非常にいい状態 例)寝ずに活動できる、アイディアがどんどん浮かぶ、無謀な買い物やギャンブルをするなど |
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うつ状態 | 気分が落ち込む状態 例)つらい気持ちが続く、死にたいと思う、自分は何をやってもダメだと自己嫌悪に陥るなど |
双極性障害は気分障害のひとつです。しかし、うつ病とは異なる病気です。そのため治療法も違います。
軽い躁状態に気づかず「うつ病」と診断されたり、うつ病の方が元気を取り戻しただけにもかかわらず、躁状態と判断され「双極性障害」と診断されたりすることがあります。
双極性障害の患者数は約1000人に4〜7人(0.4〜0.7%)であり、うつ病(10%)と比べると頻度は少ないです。
ただし、躁状態に気づいていないケースを含めると患者数は増加する可能性があります。また、20歳前後の若い年齢で発症するケースが多いことがわかってます。
双極性障害は2種類に分類されます。
双極I型障害 | 日常生活に支障が出るような躁状態を引き起こす 例)話が次から次へと止まらない、夜も寝ずに動き回るなど |
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双極II型障害 | 日常生活に大きな支障はないくらいの躁状態を引き起こす 例)「あれ、そういえば最近元気になったか?」と言われるくらい周囲からは分かりにくい |
双極性障害の症状が強まると、仕事や家庭に大きな問題が生じ、日常生活に支障をきたします。やる気が起きなかったり、死にたいと強く感じたりすることもあります。
双極性障害は放置しても治ることはありません。さらに、再発のリスクも高く、専門家による治療が症状のコントロールのためには不可欠です。
そのため、気になる症状がある方や周囲の方に異変を指摘された場合は早めに受診することをおすすめします。
双極性障害の原因
双極性障害の明確な原因は、現在の医療でははっきりわかっていません。体内にある特定の物質(神経伝達物質)の調整が、うまくできてない可能性が指摘されてます。
また、遺伝の影響も強いと言われてます。しかし、親が双極性障害であっても、子どもが同じ病気になるわけではありません。
遺伝要因以外にも、ストレスや生活習慣病などが発症のきっかけになると言われています。
双極性障害の症状
双極性障害の患者さまには、躁状態とうつ状態の症状が現れます。一般的に、うつ状態の占める期間が長いことが多いです。
躁状態とうつ状態の症状についてそれぞれくわしくみていきましょう。
躁状態
ここでは躁状態の症状について紹介します。
- ほとんど寝なくても元気に活動ができる
- 寝てなくても疲労感を感じない
- 相手が会話に入れないくらい話し続ける
- 次々とアイディアが出てくるが、最後までやり遂げられない
- 自信に満ちあふれる
- 無謀なことをする(ギャンブルや危険運転など)
- 集中力の欠如
- 性的に奔放になる
- 自分ならなんでもできる気がする
- 些細なことでイライラする など
うつ状態
ここではうつ状態の症状について紹介します。
- 疲れやすい
- 何をするのも時間がかかる
- やる気が出ない
- 食欲低下
- 眠れない、もしくはどれだけ寝ても眠い
- 今まで楽しかったことを楽しめ性欲がない
- 疲れやすい
- 頭痛や肩こり
- 動悸
- 胃の不快感 など
躁状態とうつ状態の症状を繰り返すのが双極性障害の特徴です。
また、ご自身で症状に気づくことが難しい病気です。周囲の方が「あれ?おかしいな」と違和感を覚えることがきっかけで病気が発見されることもあります。
双極性障害の診断
アメリカ精神医学会が定めるDSM-5やWHO(世界保健機関)が定めるICD-11の診断基準があります。
これらの基準をもとに、専門の医師による問診により診断されます。患者さまの生活背景や症状についてくわしく確認します。
ただし、双極性障害の診断は難しく、「躁状態があるのか」「うつ病との違い」などの判別が重要です。
ほかの病気が隠れている可能性や薬物使用の可能性を否定するために、血液検査や画像検査(CT・MRI)をする場合があります。ときには、家族から情報を得て診断に役立てることもあります。
双極性障害の治療法
双極性障害の治療は、主に「薬を使う治療」と「心理社会的アプローチ」の2つです。
双極性障害の症状は、カウンセリングだけでの回復は期待できません。
そのため、薬物療法を基本として、心理社会的アプローチを加えた治療プランが組み立てます。
薬を使う治療(薬物療法)
薬剤療法の目的は以下のとおりです。
- 躁状態を改善 (気分が上がっている時を調整する)
- うつ状態を改善(気分が落ちている時を支える)
- 再発予防(気分の波をおだやかにする)
実際に使われる薬剤をみていきましょう。
気分安定薬 |
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抗精神病薬 | 躁状態や混合状態の治療に使われることが多い 例)クエチアピン(セロクエル)、オランザピン(ザイプレクサ)、リスペリドン(リスパダール)など |
抗うつ薬 |
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薬剤療法では、定期的に採血検査をして、からだのなかにどれくらい薬が残っているのかを調べます。また、同じ薬であっても患者さまそれぞれで目的が違うため、飲む量や頻度が変わります。
そのため、専門医の処方の通りに薬剤を服用することが薬物療法では重要です。症状が落ち着いていても、主治医の指示があるまでは薬剤を自分の判断で中止したり、減量したりしないようにすることが症状を和らげるために必要です。
ただし、薬で症状が良くならなかったり、薬の飲み方に疑問を感じたりする場合は、主治医に相談して悩みを解決しましょう。
心理社会的アプローチ
双極性障害の管理では、心理面へのアプローチが欠かせません。
なぜなら、双極性障害では症状が改善されたときに患者さま自身の判断で治療をストップし、再発を繰り返してしまうことが多いからです。
具体的には、心理社会的アプローチをすることで以下に役立ちます。
- 病気の受け入れ
- 薬物療法による症状管理
- 治療の継続
さらに、再発した際に早めに気づき、治療につなげることができます。症状が再発したときの適切な対応が、双極性障害の症状をコントロールしていくなかで重要なポイントです。
そのため、心理社会的アプローチを通し「自らの病気や症状を知ること」「受け入れること」が双極性障害の症状の悪化を防いだり、改善を目指したりするために欠かせません。
上記以外の治療法として「TMS治療」があります。日本では、うつ病に対して保険適用になっている治療法です。脳の一部を刺激することで、薬物療法だけでは治らないうつ状態に効果があるとされています。
現段階では、双極性障害に対するTMS治療は現段階では保険適用外ですが、うつ状態を改善する手段としては効果が期待できます。
薬剤療法などで効果がみられない方や、お薬の副作用がつらく服薬が難しい場合にはぜひ、TMS治療もご検討ください。
くわしく知りたい方はこちらも合わせてご覧ください。
双極性障害の治療をお考えの方へ
双極性障害は、本人の自覚がないことやうつ病との区別が難しい病気です。日常生活への影響も大きい場合があり、患者さまはつらい思いをします。
しかし、双極性障害は適切な治療により症状の改善が期待できます。落ち込みやすい、気分が晴れないなど、もしご自身や身近な方で気になる症状がある場合は、お気軽にご相談ください。
さらにくわしく双極性障害について知りたい方は、以下をお読みください。
執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了