自律神経失調症
自律神経失調症とは?
自律神経失調症とは「明らかな病気がないにもかかわらず、全身の倦怠感やめまいをはじめ、頭痛や動機など自律神経のバランスが崩れることによる不調」を指します。
正式な病名ではなく、ストレスによるこころの病気症候群のひとつとされています。どのような病気でもストレスで自律神経失調状態にはなるのです。
近年では、芸能人やスポーツ選手が公表することも影響し、自律神経失調症という言葉を耳にする機会が増えました。
「ずっとからだがだるい」「病院で検査したけど、異常はないといわれた」などと、全身の倦怠感やめまい、頭痛などを感じ病院を訪れたものの病名がはっきりせず治療が進まない経験をした方も多いでしょう。
さまざまな検査をしたもののこれといった原因がわからなかったり、検査結果から症状のつらさをうまく説明できなかったりするときには、自律神経失調症の恐れがあります。
そもそも「自律神経」ってなに?
自律神経とは、心臓の動きや呼吸、消化器の働きなどいずれも人々が生きていくうえで欠かせない機能を無意識のうちにコントロールしている神経系のことです。
自律神経系は以下の2つにわけられます。
- 交感神経(緊張させる)
- 副交感神経(リラックスさせる)
自律神経系の役割は体内の反応を調整することです。反応を刺激したり促進する場合は主に交感神経が、反応を抑制したり緩和したりするには主に副交感神経が使われます。それぞれ以下のような症状があらわれます。
交感神経
- 心臓の鼓動を高める
- 筋肉を緊張させる
- 呼吸を早める など
副交感神経
- 心臓の鼓動をおだやかにする
- 筋肉の緊張を緩和する
- 呼吸を穏やかにする など
さらに、具体的なケースで紹介すると、スポーツの試合前や会議でのプレゼンテーション前などでは緊張して心臓がドキドキする方もいるでしょう。
一方で、温泉に入りぼーっとしているときや、マッサージを受けているときにはリラックスしている状態であり、副交感神経が優位になるため心臓のドキドキは落ち着いています。
交感神経と副交感神経、この2つの神経は状況に応じて強弱が切り替わり調整しています。体内を常に良好な状態に保ち続けるために働いており、強弱の割合が偏り過ぎないことが重要です。
ただし、ときにその強弱のバランスが崩れてしまうことがあり、この状態を「自律神経失調症」と呼んでいます。
自律神経失調症の症状
自律神経失調症の症状は、主に下記の2つに分けられます。
- 精神症状(こころの不調)
- 身体症状(からだの不調)
からだに不調があるにもかからわずはっきりとした診断がない方や「もしかして自律神経失調症なのかな?」と悩んでいる方は参考にしてください。
精神症状(こころの不調)
まずは、精神症状について詳しく紹介します。
- 不安な気持ちが強くなる
- 気分の落ち込みが激しい
- すぐ悲しくなる
- 集中力が続かない
- やる気や意欲が低下する
- イライラが止まらなくなる
これらの症状に該当する方は、自律神経失調症の可能性があります。症状が気になる方は、一度精神科や心療内科を受診して相談してみてください。
身体症状(からだの不調)
次に、身体症状についてみていきましょう。
- 頭痛やめまい
- 肩こり
- まぶたのけいれんや目の乾き
- 胸焼けや胸苦しさ
- 手足のしびれや痛み
- 手足の冷え
- 息の苦しさ
- 吐き気や胃の不快感
- 下痢や便秘
- 全身の倦怠感や微熱
- 勃起障害や射精障害
- 月経の不順
自律神経失調症は、上記に挙げた症状のひとつがあらわれるわけではなく、複数の症状が出る場合も多いのが特徴です。
からだの治療をおこなっても回復しない場合は、精神症状の治療を検討したほうが良いでしょう。
自律神経失調症の原因
自律神経のバランスが崩れる原因は、はっきりとわかっていません。
というのも、自律神経の働きを正しく調べる検査方法がないことやストレスを正確に調べられないためです。
ただし、大きく分けて3つの要因があると考えられています。
- ホルモンの乱れ
- 生活習慣の乱れ
- ストレスの蓄積
それぞれ3つの原因について詳しくみていきましょう。
(1)ホルモンの乱れ
私たちのからだにあるホルモンのなかでも、以下2つが自律神経失調症への影響が大きいといわれています。
- 甲状腺ホルモン(からだの新陳代謝を促進する働きがある)
- 女性ホルモン(エストロゲンやプロゲステロンのことであり女性の心身に大きく影響している)
これら2つのホルモンは、自律神経の乱れと関係が深いとされています。
女性ホルモンが影響しているため、自律神経失調症になるのは女性が多いとされています。いずれのホルモンも、医療機関で採血すると数値がわかります。数値に異常がある場合は、さらに検査を進め甲状腺疾患や婦人科疾患、更年期障害の有無を確認するのが一般的です。
からだやこころの不調が続いている方は、医療機関を受診して医師に症状を詳しく伝えてください。
(2)生活習慣の乱れ
自律神経の調整は、生活リズムに合わせておこなわれます。日中は交感神経が、夜間は副交感神経が活発になるようにバランスが調整されているのです。
生活習慣が乱れると、自律神経のバランスも崩れます。そのため、以下のポイントに注意してください。
- 栄養バランスのとれた食生活
- 定期的な運動
- 規則的な睡眠
食事は栄養のバランスを考え、1日3食しっかりと食べてください。定期的な運動は生活習慣を整えるために重要です。ハードな運動をする必要がありません。ウォーキングや散歩など、続けやすくできることから始めましょう。
良質な睡眠も自律神経を整える効果が期待できます。寝る前にスマホを見ると睡眠に悪影響を与える恐れがあるため控えてください。
ほかにも、過度なカフェインの摂取や喫煙なども、自律神経に悪影響を与えるため注意して生活しましょう。
(3)ストレスの蓄積
ホルモンや生活習慣などの乱れがない場合は、ストレスの蓄積を疑ったほうが良いかもしれません。日常生活のさまざまなストレスが溜まると、自律神経の乱れに大きく影響します。
ストレスの受け止め方には個人差があります。というのも、同じストレスや刺激があった際に、人によって感じ方や捉え方が異なるためです。
たとえば、ピアノの発表会があるときに極度に緊張する方もいれば、楽しみで仕方がない方がいるかもしれません。ほかにも、看護師の国家試験前には手が震えてガチガチになる方がいれば、看護師になった姿を想像してワクワクする方もいます。
これらのストレスが一時的なものであれば影響は少ないかもしれません。
ですが、ストレスがかかる状態が長引くと、からだが耐えられなくなり自律神経失調症の症状があらわれます。
そのため、自律神経失調症には性格の傾向も関係しているといえるでしょう。
自律神経失調症は女性に多い?
自律神経失調症は、年齢や性別を問わず誰でも発症する恐れがあります。
ただし、男性と女性を比べると、女性に多いとされています。なぜなら、女性は思春期の初めから閉経するまで毎月、月経を経験し、月経は「女性ホルモンの分泌変化」に影響されて起こるためです。
ほかにも、女性が自律神経の安定を保てない理由としては「甲状腺ホルモンの乱れ」「女性のほうが気分障害や不安障害が多い」とされます。
それぞれ3つの要因について詳しくみていきましょう。
(1)女性ホルモンの変化
女性ホルモンの調整は、脳の視床下部(ししょうかぶ)と呼ばれる部分でおこなわれています。視床下部は、自律神経系のバランスの司令塔でもあるのです。
そのため、女性ホルモンの変化が自律神経に与える影響は非常に大きく、月経や加齢にともなう女性ホルモンの変化によって、自律神経にかかわる症状があらわれやすいといえます。
症状に悩む方は婦人科や産婦人科を受診して相談しましょう。
(2)甲状腺ホルモンの乱れ
先述したように甲状腺ホルモンには、新陳代謝を促す働きがあります。甲状腺ホルモンの影響により交感神経が活発になると副交感神経とのバランスが崩れ、自律神経失調症の症状があらわれる恐れがあります。
以下のような甲状腺ホルモンにかかわる病気は男性に比べて、女性のほうがなりやすいです。
- バセドウ病(甲状腺機能亢進症)
- 橋本病(甲状腺機能低下症)
甲状腺が腫れたり「運動もなにもしていないのに動機が止まらない」「周りは涼しいといってるのに私だけ汗が止まらない」などの症状がある方は、内分泌内科や内分泌代謝科を受診しましょう。
(3)気分障害や不安障害の多さ
気分障害と不安障害はいずれも精神疾患のひとつです。これらの精神疾患は、男性より女性のほうが多く、自律神経症状を伴う場合も多いです。
実際に、厚生労働省の調査によると、双極性障害を含む気分障害の患者数は100万人であり、男女別でみると女性のほうが男性よりも1.6倍多いとされています。
そのため、特に女性で長引くからだのだるさや寝つきの悪さなどがある方は注意してください。
自律神経失調症の治療法
自律神経失調症は治せる病気です。治療方法は大きく分けると以下の2種類に分類されます。
- 自律神経症状を緩和する
- 本質的な原因に対して治療する
それぞれを詳しく解説します。自律神経失調症の症状に不安を感じている方は、ぜひ参考にしてください。
(1)自律神経症状を緩和する
まずは原因をみつけて解決していくことが重要です。とはいえ、症状が強く出ている場合は、本質的な原因へのアプローチが難しいこともあるでしょう。
その場合は、まずは症状に対しての治療を開始します。治療は主に以下の2つがあげられます。
- 薬物療法:薬を使用して症状を緩和する
- 環境調整:ストレスの原因を除去し環境を整える
薬物療法では、こころとからだのどちらも確認しながら、両方にアプローチします。
- こころの薬:ストレスを緩和し、自律神経症状の改善を目指す
- からだの薬:身体症状を緩和し、ストレスと向き合えるようにする
こころの薬で主に使われるのは抗うつ薬や抗不安薬の2種類です。漢方薬や自律神経調整薬を使うこともあり、ストレスやこころの面へアプローチします。専門医による自律訓練法や精神療法がおこなわれることもあります。
また、からだの薬を使用する目的は対症療法です。例えば、痛みがあるときには鎮痛剤、お腹の調子が悪いときには整腸剤、眠れないときには睡眠薬など症状に合わせた薬が処方されます。対症療法でからだの症状のストレスがなくなると、治療効果が高まるという好循環も期待できます。
自律神経失調症では、交感神経が活発になっており、からだが緊張している状態が続いていることが多いです。からだの緊張を緩める効果が期待できる薬を使うと、症状が改善するでしょう。
気軽にできるストレス解消法としては散歩やジョギングのほかに、体操や入浴などがあります。本人の嗜好に合わせてリラックスできる方法を選ぶことが重要です。
ただし、症状がつらくなったり、きつくなったりしたときは中止してすぐに主治医に相談しましょう。
(2)本質的な原因に対して治療する
症状を引き起こす本質的な原因がある場合は、原因にアプローチできなければ根本的な改善につながりません。薬の使用は、あくまでサポートとしての役割を期待して使用するのが望ましいです。
自律神経失調症を発症する原因は、ひとつとは限りません。
患者さまの状態や希望に合わせて医師と一緒に進めます。症状を確認しながら薬物療法や精神療法などを適切に選び、症状が回復することを目指します。
自律神経失調症の症状に悩む方
本記事では、自律神経失調症の症状や治療方法について解説しました。
私たちの生活には、さまざまなストレスが存在します。自律神経が乱れ、症状に悩んだり不安を感じたりすることは珍しくありません。
もし、自律神経失調症の症状があらわれたとしても、それはご自身だけの責任ではありません。症状が軽くなったり、ひどくなったりなどを繰り返すため、なるべく早めに精神科や心療内科を受診してください。
なにかの不調を感じている場合は、別のこころの病気が隠れている恐れがあります。
ひとりで悩まず、こころの病気の専門家に、ぜひお気軽にご相談ください。
執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了